スクールカウンセラーとは、児童生徒や保護者、教職員が抱える悩みを受け止め、解決に導く「教育現場の心の専門家」です。
スクールカウンセリング制度が導入されたのは、1995年7月。
近年のいじめの深刻化や不登校児童生徒の増加にともない、学校におけるカウンセリング機能の充実を図るため、全国の学校に配置されるようになりました。
子どもたちや保護者らが抱える心の問題には、学校でのいじめや友人関係、家庭での虐待、精神疾患、発達障害などの原因が複雑に絡み合っているケースが多く、教員による聞き取りや対応では解決に導けないケースも多々あります。
そのため、臨床心理学などの専門知識やカウンセリングの経験をもとに、多面的なサポートを行えるスクールカウンセラーの存在が重要視されています。
2021年の文部省による調査によると、公立学校におけるスクールカウンセラーの配置率は小中学校で93.7%、高等学校で93.1%。
一見高いようにも思えますが、配置率には地域差があり、配置時間が少ないという現場からの意見もあるため、今後需要が高まっていくことが予想されています。
スクールカウンセラーは、主に次の7つの業務を担います。
・カウンセリング
・コンサルテーション
・カンファレンス
・研修・講話
・審査・診断(見立て)・調査
・予防的対応
・危機対応・危機管理
それぞれ詳しくみていきましょう。
児童生徒や保護者、教職員へのカウンセリング(面談)は、スクールカウンセラーのもっとも重要な業務です。
カウンセリングでは、カウンセラーが会話を主導するのではなく、相談者の話に傾聴することでストレスや悩みを解消に導いたり、無自覚の心の問題を自覚させたりすることが求められます。
カウンセリング対象者の中には、必要性はあるものの、面談に対して消極的・否定的な人もいます。
そのような場合は、スクールカウンセラーによる積極的なコミュニケーションや、相談しやすい雰囲気づくりをとおして、相談者の不安を取り除くことも大切です。
コンサルテーションとは、心の問題の解決に向けて、ものごとの見方や取り扱い方、かかわり方を検討し、的確なコメントやアドバイスを行うことを指します。
カウンセリングでは、相談者の話に耳を傾ける「傾聴」に重点が置かれますが、コンサルテーションでは臨床心理学の知見をふまえた「助言」が求められます。
相談者もカウンセリング時とは異なり、具体的なアドバイスを求めているため、傾聴の姿勢だけでは目的が達成されず、信頼関係にヒビが生じる可能性もあるでしょう。
そのため、専門家としてより具体的で踏み込んだアドバイスができるよう、心理学の一般的な知識を身につけるだけでなく、臨床心理学分野の最新の研究成果などにも目を通し、常に新たな知識を取り入れていく必要があります。
カンファレンスとは、ある事例に対する関係者による協議や会議、話し合いを指します。
カウンセリングやコンサルテーションとは異なり、カンファレンスには生徒指導担当者や学年主任、学級担任などさまざまな立場の人が参加し、場合によっては保健師や医師が同席することもあります。
カンファレンスは、すべての参加者が対等な立場で意見交換をする場です。
スクールカウンセラーには、学校生活で発生した問題などに対し、専門的立場から意見を述べ、ほかの立場の参加者の意見を真剣に聞くことが求められます。
個人的なカウンセリングだけでなく、教職員や保護者、地域へ向けた研修・講話・講演なども、カウンセラー業務の一つです。
研修や講話には、次のような形式があります。
・情報伝達型:不登校や思春期の子どもの特徴、カウンセリングマインドなどの特定のテーマについて講話を行う
・参加型・体験型:ロールプレイを用いた傾聴練習などのワークをレクチャーする
・事例研究形式:不登校や児童虐待の事例をもとに講演を行う
スクールカウンセラーには、テーマを与えられたときに即座に対応できる準備や、体験型研修を催すためのさまざまなワークの実体験などが求められます。
また、知識や経験とあわせて、難しい専門用語を使わず、どのような立場の人にもわかりやすく簡潔に伝えられる話術も備えておくべきでしょう。
スクールカウンセラーの業務には、心理検査を用いた査定(アセスメント)も含まれます。
検査には、描画法やロールシャッハテストといった人格検査と、発達の遅延などの判定に使われる発達検査があります。
心理検査を行う際、スクールカウンセラーはその検査が何を測定するために行われるのか、なぜ必要なのかを、相談者に必ず告知しなければなりません。
そのため、すべての心理検査を実施する必要はありませんが、代表的な方法に関しては、結果の見方や実施方法、活用方法について理解を深めておくことが大切です。
また、心理検査の内容はプライベートな情報のため、スクールカウンセラーと検査を受けた相談者以外に漏れないよう、細心の注意を払う必要があります。
起きてしまったことに対するカウンセリングやカンファレンスだけでなく、症状や問題行動を未然に防ぐ予防的対応も、スクールカウンセラーの重要な業務です。
予防的対応には、簡単なストレスチェックシートを用いた児童生徒・教職員のストレス度の把握や、授業や特別活動の時間を活用したクラス・学校単位で行うリラクゼーションなどが挙げられます。
予防的対応は、ときに不登校やいじめの阻止にもつながるため、自身のスクールカウンセリングメニューに取り入れられるよう、実施方法や活用方法を把握しておくことが大切です。
スクールカウンセラーは、災害や事件、事故などの危機的状況が発生した際に、児童生徒・保護者・教職員の心のケアを行います。
実際に、2011年に発生した東日本大震災の際、震災後3年間にわたって実施されたスクールカウンセラーと高校教諭を主体とした心理的支援が行われました。
そして、この活動によって、高校生の抑うつ気分や心的外傷後ストレス反応が改善されたことが報告されています。
現地のカウンセラーや教職員では対応しきれない場合は、経験豊富なスーパーバイザーに支援を要請する必要があるため、危機の規模を冷静かつ的確に把握することも、スクールカウンセラーの重要な役割です。
教育現場で心の専門家として相談者に寄り添うスクールカウンセラーに向いている人の特徴として、以下のような項目が挙げられます。
・相手の気持ちに寄り添える
・約束事・秘密を守れる
・論理的な思考のもと冷静な判断ができる
それぞれ詳しくみていきましょう。
スクールカウンセラーへの相談内容には、いじめや家庭内暴力など、他人には話しづらい内容が含まれているケースがあります。
相談者である児童生徒や保護者、教職員にとって、このような悩みを第三者に打ち明けるのは相当勇気のいることです。
そのため、スクールカウンセラーには、穏やかな表情や的確なタイミングでの相づち、適切な助言ができ、相手の気持ちに寄り添いながら話に耳を傾けられる人が適任です。
また、表情やしぐさから相手の気持ちを察するのが得意な方も、カウンセリングの仕事に向いているといえるでしょう。
文部省の公式サイトでは、「スクールカウンセラーの身分、心構え」として、次の4点が挙げられています。
・法令遵守の義務、上司の職務上の命令に従うこと
・信用失墜行為の禁止
・秘密漏洩の禁止(公務員の守秘義務)
・職務への専念
上記はすべて、教育現場に限らず仕事をするうえで当然守るべき項目です。
特に「秘密漏洩の禁止」は、規則としてはもちろん、センシティブな相談内容が多いスクールカウンセリングにおいて、相談者との信頼関係の構築にもつながる重要なポイントといえるでしょう。
相談者の気持ちを理解し感情や情緒を共有する「共感」はしても、相談者の意見や感じ方に対して同調する「同感」はしないというのが、カウンセリングにおける基本的かつ重要な考え方です。
相手の気持ちに寄り添うことは大切ですが、スクールカウンセラーとして接する中で、感情移入しすぎたり個人的主観のもと意見したりすることはさけなければなりません。
そのため、いつでも論理的に物事を考え、相手にとって最善の方法を冷静に導き出していける人は、スクールカウンセラーに向いているといえます。
スクールカウンセラーは、実際にどのような相談を受け、どのような条件で働いているのでしょうか。
ここでは、スクールカウンセラーに寄せられる主な相談内容やスクールカウンセラーの雇用形態、選考条件について解説します。
文部科学省の調査データでは、2020年にスクールカウンセラーに寄せられた相談内容として、以下の項目が挙げられています。
・不登校 24.9%
・心身の健康・保健 15.4%
・発達障害等
11.0%
・家庭環境 9.3%
・友人関係 7.6%
・学業・進路 6.8%
・教職員との関係
・児童虐待 0.8%
・いじめ 0.8%
・非行・不良行為 0.7%
・暴力行為 0.5%
・貧困 0.1%
スクールカウンセラーとして、相談者に寄り添いながらこれらの問題に対する適切なアドバイスを行うためには、心理学に関する学びや最新事例の把握をとおして、知識やスキルをブラッシュアップし続ける必要があります。
文部科学省が2022年に公表した資料では、全国に1万1,544人いるスクールカウンセラーのうち、99%が非常勤であることが明らかにされています。
また、配置方式として、配置された学校で業務を行う「配置校方式」、配置された学校を拠点にその周辺の学校も担当する「拠点校方式」、いくつかの学校を定期的に巡回する「巡回方式」のいずれかが採用されています。
このような雇用形態で働くスクールカウンセラーが学校で職務にあたる時間は、公立小・中学校で週1回およそ4時間程度。
現状、児童生徒への対応や教職員への助言のための時間が十分でないことが課題として挙げられており、配置時間の拡充が検討されています。
スクールカウンセラーの選考条件は、以下のとおりです。
1. 公認心理師
2. 公益財団法人日本臨床心理士資格認定協会の認定に係る臨床心理士
3. 精神科医
4. 児童生徒の心理に関して高度に専門的な知識および経験を有し、学校教育法第1条に規定する大学の学長、副学長、学部長、教授、准教授、講師(常時勤務をする者に限る)
または助教の職にある者またはあった者
5. 都道府県または指定都市が上記の各者と同等以上の知識および経験を有すると認めた者
上記の資格に加え、実際の選考では教育現場での活動実績なども判断材料となる場合があります。
ちなみに、スクールカウンセラーは小学校・中学校・高校のいずれかに配置されますが、教員免許の有無は選考基準に含まれません。
スクールカウンセラーになるためには、選考条件を満たすだけでなく、心理学やストレスマネジメントなどに関する基礎知識を身につけておくことが大切です。
ここでは、スクールカウンセラーの仕事に役立つおすすめの資格を3つご紹介します。
「チャイルド心理カウンセラー資格」は、子どもの心理や発達を十分に理解し、悩みや問題に対してカウンセリングを行う技能・知識を有していることを証明する資格です。
チャイルド心理は、子育てに活かせる心理学の知識として注目されていますが、子どもと母親・父親との関係や思春期にかけての発達や心理などに関する学びは、児童生徒や保護者の相談を受けるスクールカウンセラーの業務にも大いに活かせるでしょう。
資格検定試験内容 | ・子どもの話の聞き方 ・思春期心性・思春期危機 ・友だちをめぐる問題 など |
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受験資格 | 特になし |
受験料 | 1万円(税込) |
受験申請 | インターネットからの申し込み |
受験方法 | 在宅受験・期日までに解答用紙を提出 |
合格基準 | 70%以上の評価 |
試験日程 | 2ヶ月に1回のペースで開催(年度により異なる) |
「メンタル士心理カウンセラー資格」は、心理学の基礎知識を有し、カウンセラーとして活動するレベルに至っている者に与えられる資格です。
資格取得をとおして、複雑な要因が絡み合い大きなストレスを抱えている相談者を相手にするスクールカウンセラーが身につけておくべき、ストレス症状に関する基礎知識も身につけられます。
資格検定試験内容 | ・心理的ストレスによる症状 ・心理的ストレスの主な原因 ・回復するための治療法 など |
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受験資格 | 特になし |
受験料 | 1万円(税込) |
受験申請 | インターネットからの申し込み |
受験方法 | 在宅受験・期日までに解答用紙を提出 |
合格基準 | 70%以上の評価 |
試験日程 | 2ヶ月に1回のペースで開催(年度により異なる) |
「行動心理カウンセラー資格」は、行動心理学の基礎的な知識を身につけていることの証明となる資格です。
行動心理学とは、人の行動やしぐさから心理状態を推定する学問のことを指します。
ときに、カウンセリング時だけでなく、学校生活を送る様子などからも相談者の心理を探る必要があるスクールカウンセラーにとって、行動心理学の知識は大きな手助けとなるでしょう。
資格検定試験内容 | ・単純接触効果 ・イエス誘導法 ・類似性の法則 など |
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受験資格 | 特になし |
受験料 | 1万円(税込) |
受験申請 | インターネットからの申し込み |
受験方法 | 在宅受験・期日までに解答用紙を提出 |
合格基準 | 70%以上の評価 |
試験日程 | 2ヶ月に1回のペースで開催(年度により異なる) |
スクールカウンセラーは、児童生徒・保護者・教職員の心の問題を解決に導く心の専門家であると同時に、安心して悩みを打ち明けられる心の拠り所でもあります。
信頼されるスクールカウンセラーになるためには、選考条件を満たすだけでなく、心理学の勉強に対する前向きな姿勢が欠かせません。
スクールカウンセラーに必要な心理学の基礎知識や、カウンセリングに活かせるストレス症状などに関する知識を身につけたい方には、通信講座での資格取得もおすすめです。
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