刻み食を正しく理解するために、まずは基本的な知識から身につけていきましょう。
刻み食とは、普通の食材を5mm~1cm程度の大きさに細かく刻んで調理した介護食の一種です。噛む力(そしゃく力)が低下した方が安全に食事を摂れるようにすることが主な目的です。
食材を細かく刻むことで噛む負担を軽くし、口の中でまとまりやすくして誤嚥のリスクを抑えます。ただし、飲み込む力(えん下力)が保たれている方に適した食事形態であることが重要です。刻み食は介護食の中でも比較的取り入れやすい形態として、多くの家庭や施設で活用されています。
刻み食が適しているのは、歯の調子が良くない人、入れ歯を使用している人、口が開きにくい人などです。また、だ液の量が減っていない人、飲み込む力が十分にある人にも向いています。
歯がない方や歯が悪い方、口の機能が低下している方も刻み食の対象者となります。重要なのは、噛む力は落ちていても飲み込む力が保たれている方に適していることです。飲み込む力が低下している方には、より安全な食事形態を選ぶ必要があります。病気や手術後の回復期にある人々も、刻み食が適している場合があります。
刻み食の大きさは、食べる方の状態に合わせて調整することが大切です。
一般的には5mm~1cm程度が基準とされていますが、個人の噛む力に応じて細かく調整する必要があります。噛む力がある程度保たれている方には1cm程度、より噛む力が落ちている方には5mm以下まで細かく刻むこともあります。
刻み方としては、料理をまな板にのせて包丁で刻むか、はさみでカットするのが主流です。最近では、フードプロセッサーを使用する他、刻み食用のフードカッターなども販売されています。食べる方の状態を見極めて適切な大きさに調整することが大切です。
刻み食には多くのメリットがあります。
噛む作業を軽くできることが最大のメリットです。食材が細かく刻まれているため、噛むことにかかる負担が大幅に減ります。刻み食は普通の食事と比べると食材の切り方だけを変えているため、味や風味が大きく変わることはありません。
また、普通の食事に近い見た目や味を楽しめることも大きな利点です。ミキサー食などと比べて、食材の形や彩り、香りを保ちやすく、食事の楽しみを維持できます。家庭や施設で手軽に用意できる点も、介護者にとってメリットとなります。個人の噛む力に応じて食材の大きさを自在に調整することができるのも特徴です。
刻み食と他の介護食との違いを知っておくことで、適切な選択ができます。
ソフト食は刻み食と異なり食材は細かく刻まれていません。舌や歯ぐきで押すだけで潰れるほどの柔らかさに調整されているため飲み込みやすく、誤嚥のリスクが少ないことが特徴です。刻み食には向かない人も、ソフト食なら食べやすいことがあります。
ミキサー食は食材をペースト状にした食事で、飲み込む機能が著しく落ちている方に適した食事形態です。ゼリー食は料理をペースト状にし、ゼラチンや寒天などを加えて柔らかく固めたもので、のどの滑りも良く安全に飲み込めるのが特徴です。それぞれの特徴を理解して、適切な食事形態を選ぶことが重要です。
安全で美味しい刻み食を作るためのコツやポイントをお伝えします。
刻み食作りには、適切な道具選びが大切です。
包丁は鋭くて持ちやすいものを選びましょう。鋭い包丁は食材をスムーズに刻むことができ、食材を潰すことなくきれいに切ることができます。フードプロセッサーを使用する場合は、食材が完全にペースト状にならないよう調整が重要です。
必要な道具は以下の通りです。
・鋭い包丁
・清潔なまな板
・フードプロセッサー(あると便利)
・はさみ(食材カット用)
・とろみ剤
・保存容器
これらの道具を適切に使い分けることで、効率的に刻み食を作ることができます。特に衛生面に注意して、調理前後の器具の洗浄・消毒を徹底しましょう。
食材ごとに適した刻み方があります。刻む大きさは食べる方の噛む力に合わせて調整します。一般的には5mm~1cm程度が目安ですが、個人の状況に応じて細かく調整することが大切です。水分調整やとろみ付けの工夫として、パサつきやすい食材には水分を加えたり、必要に応じて片栗粉やとろみ剤を使用してまとまりをよくします。
肉類の刻み方では、脂身を取り除いて薄切りにしてから調理し、煮込んで柔らかくした後に刻みます。魚類の刻み方では、骨と皮を丁寧に取り除き、蒸したり焼いたりしてからほぐします。野菜は蒸す、煮る、炒めるなどして柔らかくしてから刻み、穀物は水分を加えて柔らかくしてから細かくほぐします。
刻み食にとろみをつけることで、誤嚥を防ぎ安全性を高めます。とろみをつける目的は、刻んだ食材をまとまりやすくして誤嚥を防ぐことです。片栗粉、コーンスターチ、市販のとろみ剤などを使用できます。とろみの濃度は中間から濃いとろみ程度が理想的で、薄いとろみでは食事と上手く絡まないため、まとまり感を出すのは難しいです。
とろみあんを刻み食の上からかけるだけでなく、「和える」ことで、よりまとまり感が出ます。とろみ剤を使用する際は、ダマにならないよう少しずつ加えながらよく混ぜることが大切です。温度や時間の経過によってとろみが変化することもあるため、提供直前に確認することも重要です。
食材の特性を活かした調理方法をご紹介します。
野菜類では、硬い根菜類(人参、大根など)は十分に柔らかく煮てから刻みます。葉物野菜はさっと茹でてから細かく刻み、水分を適度に切ってから使用します。いも類はマッシュしてから使用すると食べやすくなります。
肉類については、鶏肉は皮を取り除いて茹でるか蒸してから細かくほぐします。豚肉や牛肉は脂身の少ない部位を選び、十分に柔らかく煮込んでから刻みます。魚類は骨を丁寧に取り除き、身をほぐしてから使用します。刺身など生魚は避け、必ず加熱してから使用しましょう。
安全な刻み食作りには、衛生管理が何より重要です。衛生管理の徹底が最も重要です。刻み食は、調理済みの食品を細かく刻み、そのまま提供する方法もあります。そのため、包丁やまな板などに細菌が残っていると、食品にも付着し、食事を食べた方の体内に入ってしまう恐れがあります。
調理器具は使用前後にしっかりと洗浄・消毒し、特に生肉や魚を扱った後は十分な注意が必要です。食材を刻む際は、サイズが均一になるよう心がけ、温度管理も適切に行います。アレルゲンの管理も重要で、卵、牛乳、小麦などのアレルギー食品には特に注意を払います。調理室の温度や湿度にも気を配り、細菌の繁殖を防ぐ環境作りが大切です。
実際に作れる美味しいレシピから、便利な市販品の使い方まで詳しくご紹介します。
栄養バランスが良く、簡単に作れるレシピをご紹介します。刻み野菜の煮物は栄養バランスが良く、簡単に作れる代表的なレシピです。人参、じゃがいも、大根を1cm角に刻みます。鶏肉も同様に小さく切ります。鍋にだし汁を入れ、刻んだ食材と鶏肉を加えます。中火で煮立たせます。煮立ったら、しょう油とみりんを加え、蓋をして弱火で約15分煮ます。
材料は人参1本、じゃがいも1個、大根1/4本、鶏もも肉100g、だし汁400ml、しょう油大さじ1、みりん大さじ1です。作り方は食材を1cm角に刻み、だし汁で煮立てた後、調味料を加えて弱火で15分煮込みます。彩りを考慮した盛り付けで見た目も美しく仕上げられます。
魚料理も工夫次第で美味しい刻み食になります。鮭のほぐし煮は、大葉を粗みじんにし、鮭を調味液に10分浸します。鮭の水分を拭き取り7分ほど蒸します。鮭に火が通ったら飲み込める大きさまでほぐします。大葉を混ぜて完成です。魚は骨を丁寧に取り除くことが重要で、誤って小骨を残すと誤嚥のリスクが高まります。
サバやアジなどの青魚も同様に調理できます。焼き魚を作った後、身をほぐして野菜と和えたり、お茶漬け風にしたりすることで、バリエーション豊かな刻み食が作れます。魚の臭みを取るために、調理前に塩をふって水分を出したり、生姜や酒を使用したりする工夫も効果的です。
食事だけでなく、おやつも刻み食で楽しめます。果物を細かく刻んでゼリーに混ぜたり、やわらかいケーキを小さく切って提供するなどの工夫があります。かぼちゃサラダは、玉ねぎを耐熱容器に入れ、500Wのレンジで1分加熱し、かぼちゃと一緒に潰すように混ぜます。マヨネーズ、酢、コショウを加えて和え、固い部分はさらに潰して味を調えて完成です。
プリンやヨーグルト、アイスクリームなども、そのまま食べられる刻み食対応のデザートです。季節の果物を使ったコンポートを細かく刻んで提供したり、寒天ゼリーに野菜を混ぜ込んだりすることで、栄養価の高いデザートも作れます。
市販品を上手に選んで、調理の負担を軽くしましょう。レトルトや冷凍刻み食の選び方について、栄養成分表示を確認し、塩分や糖分の含有量に注意します。また、食べる方の噛む・飲み込む機能に適した硬さやとろみの程度を選ぶことが重要です。保存期間や調理方法も事前に確認しておきましょう。
高齢者ソフト食やユニバーサルデザインフードのように、飲み込みやすい食事メニューの市販品が充実しています。これらの商品は段階的に硬さが分類されているため、食べる方の状態に合わせて選べます。調理の負担を軽くしたい場合や、外出時の食事に活用すると便利です。
宅配サービスを活用することで、毎日の食事作りが楽になります。
最近では介護食専門の宅配サービスが充実しており、栄養バランスを考慮した刻み食を定期的に届けてもらえるサービスがあります。これらのサービスを利用することで、調理の負担を大幅に軽くできます。管理栄養士が監修したメニューが多く、栄養バランスの心配も少ないのが特徴です。
宅配サービスを選ぶ際は、食べる方の好みや食事制限、予算などを考慮して選びましょう。お試しセットを利用して味や量を確認してから定期利用を検討することをおすすめします。冷凍タイプが多いため、冷凍庫の容量も事前に確認しておきましょう。
最近では介護食に対応している飲食店やホテルも増えており、事前に連絡することで刻み食の提供を受けられる場合があります。外出時の食事も楽しめるよう、こうしたサービスを積極的に活用することをおすすめします。
レストランや宿泊施設を利用する際は、予約時に刻み食が必要であることを伝え、対応可能かどうか確認しましょう。食材のアレルギーや食事制限がある場合も、併せて伝えることが大切です。食事の楽しみを諦めることなく、外出や旅行を楽しむことができます。
刻み食には注意すべき点もあります。安全に食べるために知っておきたいことをお伝えします。
刻み食がなぜ誤嚥を起こしやすいのかを理解しましょう。「きざみ食」の場合、硬いものと軟らかいものを一律の大きさ(1cm、5mm等)に細かくきざむため、バラバラになりやすく、準備期における口の中で食塊の形成がしにくい食形態といえます。そのため、のどに残りやすく、飲み込む機能が衰えた高齢者などが、食べ物を気道に入れてしまう誤嚥を引き起こす原因になりかねません。
人は食べ物を口にした際に、噛んでできた食塊を舌の上で飲み込みやすい形状に固める”食塊形成”を行いますが、刻み食では噛むことがほぼ不要な為、食塊形成が行われず食べ物をバラバラの状態で飲み込むことになります。その結果、誤嚥などを起こしやすいため、必要に応じて刻み食にとろみをつけて飲み込みやすくすることも大切です。
誤嚥性肺炎は高齢者にとって非常に危険な病気です。食べ物はこの5つの流れを経て、胃へ食べ物が送り込まれますが、きざみ食では、準備期や口の中で食べ物がパラパラし、うまくまとまらないので、誤嚥し、誤嚥性肺炎を引き起こしてしまいます。誤嚥は、肺炎など命に関わる症状の引き金にもなることから、とても危険です。
厚生労働省の統計によると誤嚥性肺炎は日本の死因第6位を占めており、高齢者にとって非常に深刻な問題です。若いころは誤嚥(ごえん)をしても、激しく咳をすれば気管に入ってしまった食べ物を出すことができますが、高齢者になると体力が落ちているため食べ物を出すことが難しくなります。
だ液の量が少ないと、刻み食が危険になる理由があります。高齢者になると噛む機能は衰えてしまい、刻んだ食事で噛むことを省いてしまいますが、だ液の分泌は先行期だけでなく、噛むことによっても分泌されます。噛むことを省いてしまうと、ますますだ液の分泌量が減り、食べ物がまとまらず、悪循環となってしまいます。
だ液には食べ物をまとめる役割があるため、だ液が不足すると食塊形成が困難になります。また、口の中の清潔が保たれていないと、口の中の細菌の数が増えてしまいます。そのような状態で誤嚥が起こると肺に細菌が侵入し、誤嚥性肺炎を発症するリスクが高まります。
刻み食の最大の問題点について詳しくお話しします。口の中でバラバラになりやすいことが最大のデメリットです。刻み食は食材を細かく刻んでいるため口の中でまとまりにくく、バラバラな状態で飲み込もうとすると食材の粒が気道へと入り込む場合があるため、誤嚥につながりやすいのです。
刻み食をえん下調整食として提供する上で、もう一つポイントになるのが、やわらかい食材を刻んだところに、中間のとろみあるいは濃いとろみ程度のあんを和えることです。このとろみあんの役割はまとまり感を出すことです。「薄いとろみ」ではとろみの具合が緩く、食事と上手く絡まないため、まとまり感を出すのは難しいです。
刻み食が合わない場合の他の選択肢や、介護食の今後について見ていきましょう。
ソフト食は歯ぐきや舌でつぶせる硬さに調理した食事で、口の中でまとまりやすく誤嚥のリスクが少ないメリットがあります。形はありますが、歯を使わなくても歯ぐきや舌と上あごでつぶせる硬さです。口の中で食べ物がまとまりやすいため、誤嚥のリスクが少ないというメリットがある反面、食材を柔らかくするために、長時間に煮込むなど調理時間がかかるのがデメリットです。
ソフト食は刻み食よりも安全性が高いとされており、えん下機能が低下し始めた方には、刻み食よりもソフト食の方が適している場合があります。個人の機能に応じた適切な選択が重要です。
よりえん下機能が低下した方に適した食事形態があります。ミキサー食は食材をペースト状にした食事で、えん下機能が低下した方に適した食事形態です。食欲や消化吸収などには問題がないが、噛む力が弱くなっていたり、えん下機能が低下している方に向けたお食事です。食事にだし汁などを加え、ミキサーにかけてペースト状にします。
ただし、水分量が多いものや液状のものは、口のなかでまとまりにくく、むせたり誤嚥をする危険性があるので、とろみ剤等でとろみをつけて提供する必要があります。刻み食と比べると、食材の形状がないため、美味しそうに見えないものがあることがデメリットです。
最も安全性の高い食事形態もあります。ゼリー食は料理をペースト状にし、ゼラチンや寒天などを加えて柔らかく固めたものです。ゼリーのような食感で、のどの滑りも良く、つぶさなくても安全に飲み込めるのが特徴です。噛む力・飲み込む力ともにとても低下している方に向いています。
ゼリー状の為口の中でバラけにくく、誤嚥のリスクが低いこと、ゼリー状で形を形成できる為、見た目も元の形に近づけることが出来るのがメリットです。ただし、ゼリーの硬さ調整やつぶして固めるなどの工程が必要な為、ご家庭で作ることが難しいのがデメリットです。
専門的な基準を知っておくことも大切です。日本摂食えん下リハビリテーション学会では、えん下機能に応じた食事分類を定めており、個人の状態に合わせた適切な食事形態を選ぶことが重要です。この分類では、えん下機能の程度に応じて段階的に食事形態が分けられています。
普通食をただ刻んだだけでは、えん下調整食に該当しません。「やわらかい食材」を刻むことが重要です。具体的に「やわらかい食材」とは、舌でつぶすことができるもの、歯ぐきでつぶすことができるものをさします。
食事中の様子で気になることがあれば、早めに相談することが大切です。まずは医師や言語聴覚士によるえん下機能の評価を受け、適切な食事形態を決定することが必要です。食事中にむせたり、食後に咳が続いたりすることが多い場合は、誤嚥を起こした可能性を考慮しなければいけません。
とろみ剤の使用や食事姿勢の改善、えん下訓練なども有効な対策となります。えん下機能の検査を受けることで、最適な食事形態を見つけることができます。食事中に咳き込みやむせる回数が多いと感じる方は、早めに専門医に相談することをおすすめします。
刻み食は噛む力が低下した方にとって有効な食事形態ですが、誤嚥のリスクや衛生管理の課題もあることを理解することが重要です。特に、口の中でバラバラになりやすく誤嚥性肺炎のリスクが高まる可能性があるため、適切な対象者の見極めが必要です。正しい調理方法の実践、十分な注意点への配慮、個人のえん下機能に応じた食事選択を行うことで、安全で美味しい刻み食を提供できます。一人ひとりの状態に合わせた食事選択を行い、必要に応じて専門家に相談しながら、QOLの向上を目指した食事支援を心がけましょう。食事は単なる栄養摂取ではなく、生活の楽しみでもあります。安全性を第一に考えながらも、食べる喜びを大切にした食事作りを目指していきましょう。