流動食について正しく理解するためには、その意味や特徴を把握することが大切です。
流動食とは、固形物を完全に除去した液体状の食事のことを指します。最大の特徴は、噛まずに摂取できることで、咀嚼や嚥下に困難を抱える方にとって重要な栄養源となります。
流動食が必要となる場面は多岐にわたります。手術後の回復期には、消化器官への負担を軽減するために一時的に流動食が提供されます。また、嚥下障害がある高齢者や脳卒中の患者、口腔内の手術を受けた方なども流動食を必要とします。消化器疾患を患っている方の場合、固形食では消化に負担がかかるため、流動食によって必要な栄養を安全に摂取できます。
流動食の特徴として重要なのは、液状であることに加えて消化が良いことです。食材を液体状に加工することで、胃腸への負担が大幅に軽減されます。また、刺激が少なく、味が淡白で口当たりが良いという特徴もあります。これらの特徴により、体調が優れない時や消化機能が低下している時でも、安心して栄養を摂取できます。
流動食には主に3つの種類があり、それぞれ異なる目的と特徴を持っています。
普通流動食
最も基本的な流動食です。手術直後や絶食後など、一時的に固形食が摂取できない場合に提供されます。主食として重湯（お粥の上澄み液）が使用され、消化が極めて良好です。水分を多く含むため、食事と同時に水分補給も可能になります。ただし、カロリーや栄養素は限定的なため、短期間での使用が前提となります。
濃厚流動食
少量で高いカロリーと栄養を摂取できるよう設計された流動食です。1mlあたり1kcal以上のエネルギーを含み、タンパク質、ビタミン、ミネラルがバランス良く配合されています。市販品では200mlで200～400kcalを摂取でき、栄養バランスが整っているため、長期間の使用にも適しています。
特殊流動食
特定の疾患に対応するためにカスタマイズされた流動食です。腎臓病の方には低タンパク質・低カリウムの内容に、膵炎の方には低脂肪の内容に、循環器疾患の方にはナトリウム制限を加えた内容に調整されます。医師や栄養士の指導の下で提供される必要があり、疾患の状態に応じて内容が細かく調整されます。
介護食と流動食の関係性を正しく理解することで、適切な食事選択ができるようになります。
介護食とは、咀嚼や嚥下機能が低下した方が安全に食事を摂取できるよう、食材の形態や調理法を工夫した食事の総称です。高齢者や障害を持つ方の食事全般を指し、その人の機能レベルに応じて様々な形態があります。
介護食の種類は多岐にわたります。きざみ食は食材を細かく刻んで咀嚼しやすくした食事で、歯の機能が低下した方に適しています。ミキサー食は食材をミキサーでペースト状にしたもので、咀嚼がほとんどできない方向けです。やわらか食は食材を柔らかく調理し、舌でつぶせる程度の硬さにしたものです。そして流動食も、介護食の一種として位置付けられています。
これらの介護食は、利用者の咀嚼・嚥下機能のレベルに応じて段階的に設定されており、安全で栄養バランスの取れた食事を提供することを目的としています。また、見た目や味にも配慮し、食事の楽しみを損なわないよう工夫されています。
流動食は介護食の一種であり、最も嚥下機能が低下した方向けの食事形態として位置付けられます。介護食全体の中で、流動食は最も液体に近い形態となります。
両者の大きな違いは、対象となる機能レベルにあります。介護食全体では、軽度の咀嚼困難から重度の嚥下障害まで幅広い状態をカバーしています。一方、流動食は咀嚼がまったくできず、嚥下機能も大幅に低下した方が対象です。
必要な場面も異なります。介護食は日常的な食事として長期間継続されることが多いのに対し、流動食は手術後に一時的に提供される場合や、重い嚥下障害がある場合の長期的な提供に分かれます。
また、栄養面でも差があり、介護食では通常の食材を使用するため栄養バランスを保ちやすいですが、流動食では工夫が必要です。
家庭で流動食を作る際の基本的な方法と、安全に提供するための注意点について説明します。
家庭で流動食を作る際は、基本となる食材の準備から始めることが重要です。
流動食の基本レシピとして、まず重湯の作り方をご紹介します。
1.重湯の作り方
重湯の作り方は流動食の基本中の基本です。米1カップを洗い、水7カップと一緒に鍋に入れます。強火で沸騰させた後、弱火で40～50分かけてゆっくりと煮込みます。米粒が完全に崩れて液状になったら、清潔なガーゼや目の細かい濾し器で濾し、上澄み液のみを取ります。栄養価を高めるため、卵黄1個分や牛乳大さじ2を加えて混ぜ合わせると、たんぱく質とカルシウムを補強できます。塩少々で味を調え、人肌程度に冷ましてから提供します。
2.野菜スープ
野菜スープのレシピでは、にんじん1本、玉ねぎ半個、キャベツ2～3枚を用意します。野菜をざく切りにし、水600mlで30分程度柔らかく煮込みます。野菜が完全に柔らかくなったら、ミキサーで滑らかになるまで攪拌します。その後、目の細かい濾し器で2回濾し、固形物を完全に除去します。薄口醤油やコンソメで味を調え、とろみ剤で適度な粘度をつけます。
3.フルーツジュース
卵豆腐や茶碗蒸しのアレンジとして、卵2個をよく溶き、だし汁200mlと混ぜ合わせます。濾し器で卵液を濾し、なめらかにします。蒸し器で15分程度蒸し、固まったら裏ごしして液状にします。豆腐を加える場合は、絹ごし豆腐100gを裏ごしして混ぜ込み、たんぱく質を増強します。
流動食作りで最も重要なポイントは、たんぱく質や栄養バランスの工夫です。重湯だけでは栄養が不足するため、卵黄や牛乳、豆乳を加えてたんぱく質を補強します。白身魚を柔らかく煮て裏ごしし、スープに加えることで動物性たんぱく質を摂取できます。豆腐を滑らかにすりつぶして加えることで、植物性たんぱく質も補完できます。
また、ビタミンやミネラルを補うため、野菜を柔らかく煮てピューレ状にし、スープに混ぜることが効果的です。かぼちゃやほうれん草、トマトなどは栄養価が高く、流動食に適しています。調味料は薄味を基本とし、塩分や香辛料は控えめにします。
流動食を安全に提供するためには、いくつかの重要な注意点があります。
固形物の除去・濾すことの重要性は、誤嚥防止の観点から絶対に欠かせません。どんなに小さな固形物でも、嚥下機能が低下した方にとっては危険な要因となります。調理後は必ず目の細かい濾し器やガーゼを使用し、完全に液状になるまで濾します。特に野菜の皮や繊維、魚の骨などは徹底的に除去する必要があります。
誤嚥防止のためのとろみ調整も重要なポイントです。液体のままでは誤嚥のリスクが高いため、市販のとろみ剤や片栗粉を使用して適度な粘度をつけます。とろみの強さは個人の嚥下機能に応じて調整し、医療専門家の指導に従うことが大切です。温度管理も重要で、熱すぎたり冷たすぎたりしないよう、体温に近い温度で提供します。
栄養バランスとカロリー不足への配慮は、長期間流動食を摂取する場合に特に重要です。普通の流動食だけでは1日500～800kcal程度しか摂取できず、成人が必要とする1日のカロリー（男性2200～3000kcal、女性1400～2200kcal）を大幅に下回ります。そのため、間食を取り入れたり、濃厚流動食を併用したりして、必要なエネルギーを確保することが必要です。
実際に作ることができる流動食のレシピを、基本から応用まで段階的にご紹介します。
より栄養価の高い流動食や、バリエーション豊かなメニューで食事の楽しみを提供できます。
・かぼちゃポタージュ
栄養価が高く甘みがあるため、流動食として非常に適しています。まず、かぼちゃ200gの皮と種を除いて一口大に切り、蒸し器で20分程度蒸します。
竹串がスッと通るまで柔らかくなったら、裏ごし器で滑らかにします。牛乳200mlとコンソメ小さじ1を加えて混ぜ合わせ、鍋で中火にかけながら木べらで混ぜます。最後にとろみ剤小さじ1を加えて適度な粘度に調整し、塩少々で味を整えて完成です。
・卵ムース
たんぱく質を豊富に摂取できるデザート系流動食です。卵2個を卵白と卵黄に分け、卵黄に砂糖大さじ1を加えて白っぽくなるまで混ぜます。牛乳150mlを人肌に温め、卵黄液に少しずつ加えて混ぜ合わせます。
卵白は角が立つまで泡立て、卵黄液に3回に分けて優しく混ぜ込みます。蒸し器で15分蒸し、粗熱が取れたら裏ごしして滑らかにします。冷蔵庫で冷やしてから提供すると、口当たりが良くなります。
・新たまねぎのスープ
春の代表的な流動食で、甘みがあり消化に優しい特徴があります。新たまねぎ2個の皮をむいて薄切りにし、バター小さじ1で透明になるまで炒めます。
水400mlとコンソメ1個を加えて20分煮込み、たまねぎが完全に柔らかくなったらミキサーで撹拌します。目の細かい濾し器で2回濾して固形物を除去し、塩胡椒で味を調整します。最後にとろみ剤で適度な粘度をつけて完成です。
・トマトの冷製スープ
夏にぴったりのさっぱりとした流動食です。完熟トマト3個を湯むきして種を除き、ざく切りにします。ミキサーでなめらかになるまで撹拌し、濾し器で皮や種の残りを完全に除去します。
コンソメスープ100mlを冷やしたものと混ぜ合わせ、塩少々とレモン汁数滴で味を調整します。冷蔵庫で2時間以上冷やし、提供前にとろみ剤で適度な粘度をつけます。
・白身魚のスープ
良質なたんぱく質を摂取できる主食系流動食です。たらやひらめなどの白身魚50gを塩少々を加えた湯で10分茹で、骨と皮を完全に取り除きます。
魚肉を細かくほぐし、裏ごし器で滑らかにします。昆布だし200mlに魚のペーストを加えて混ぜ合わせ、弱火で5分程度煮込みます。片栗粉小さじ1を水で溶いたものを加えてとろみをつけ、薄口醤油で味を調整して完成です。
・鶏肉のスープ
動物性たんぱく質を豊富に含む栄養価の高い流動食です。鶏胸肉100gを一口大に切り、水300mlで30分程度柔らかく煮込みます。鶏肉が箸でほぐれるまで柔らかくなったら取り出し、細かくほぐします。
ミキサーで鶏肉をペースト状にし、煮汁と混ぜ合わせます。目の細かい濾し器で2回濾して繊維を除去し、とろみ剤で適度な粘度をつけます。塩と胡椒で味を調整して完成です。
食事の楽しみを増やすため、デザート系の流動食も取り入れることができます。
・バナナスムージー
栄養価が高く自然な甘みがあるため、デザート系流動食として最適です。完熟バナナ1本を皮をむいて一口大に切り、牛乳150ml、はちみつ小さじ1と一緒にミキサーに入れます。
30秒程度撹拌して滑らかになったら、目の細かい濾し器で2回濾して繊維を完全に除去します。バナナにはカリウムやビタミンB6が豊富に含まれており、エネルギー補給にも効果的です。冷蔵庫で冷やしてから提供すると、より美味しく召し上がれます。
・りんごジュースゼリー
ビタミンCを豊富に摂取できるさっぱりとしたデザートです。りんごジュース200mlを鍋で人肌程度に温め、ゼラチン3gをふりかけて5分間ふやかします。弱火にかけながらゼラチンが完全に溶けるまで混ぜ合わせ、粗熱を取ってから冷蔵庫で2時間冷やし固めます。
固まったゼリーを裏ごし器で押しつぶして液状にし、とろみ剤で適度な粘度に調整します。自然な甘みと酸味で食欲を刺激します。
・ヨーグルトデザート
プロバイオティクスとたんぱく質を同時に摂取できる健康的なデザートです。プレーンヨーグルト100mlを滑らかになるまでよく混ぜ、はちみつ小さじ1を加えて甘みをつけます。
フルーツピューレ（いちごやももなど）大さじ1を加えることで、ビタミンと食物繊維も補給できます。ミキサーで30秒程度撹拌し、濾し器で滑らかにします。腸内環境を整える効果もあり、栄養補給と同時に食事の満足感を高める効果があります。
流動食を効果的かつ安全に活用するために知っておくべき重要なポイントについて説明します。
流動食を摂取する期間は、その人の状況や健康状態によって大きく異なります。
術後や病気の回復期、高齢者の食事など状況による違いを理解することが大切です。手術後の場合、通常は3～7日程度の短期間で、消化機能の回復とともに段階的に常食に戻していきます。口腔外科手術の場合は2週間程度、消化器系の手術では状況により1ヶ月程度続くこともあります。
病気の回復期では、症状の改善に合わせて期間が決まります。脳卒中による嚥下障害の場合、リハビリテーションの進行とともに数ヶ月から数年にわたることもあります。高齢者の場合は、機能の維持・改善が難しいケースも多く、続けて使用が必要になることがあります。
定期的な評価を行い、可能な限り食事形態をステップアップしていくことが大切です。医師や言語聴覚士、栄養士などの専門家と連携し、個人の状況に応じた最適な期間を設定します。
流動食だけで必要な栄養を満たすことは可能ですが、適切な計画と工夫が必要です。
濃厚流動食や補食の活用により、栄養不足を防ぐことができます。市販の濃厚流動食は完全栄養食として設計されており、1日3～4本摂取することで栄養要求を満たすことができます。ただし、個人の活動量や体重、年齢に応じて必要量は調整が必要です。
補食として、栄養価の高いスムージーやプロテイン入りドリンクを取り入れることも効果的です。特に、たんぱく質やカルシウム、鉄分などは不足しやすいため、これらを強化した製品を選択します。定期的な血液検査により栄養状態をモニタリングし、不足している栄養素があれば重点的に補完します。
長期間流動食を摂取する場合は、栄養士による栄養管理計画の作成を受けることをおすすめします。個人の状況に応じた詳細な栄養プランにより、健康状態を維持しながら流動食を継続できます。
適切な調整と工夫により、流動食での誤嚥リスクを大幅に軽減することができます。
とろみ調整や誤嚥防止の工夫が重要なポイントです。液体のままでは誤嚥のリスクが高いため、とろみ剤を使用して適切な粘度に調整します。とろみの強さは、薄いとろみ、中程度のとろみ、濃いとろみの3段階に分類され、個人の嚥下機能に応じて選択します。
食事の姿勢も重要で、上体を30度以上起こした状態で摂取することが推奨されます。一口の量は小さじ1杯程度から始め、ゆっくりと時間をかけて摂取します。食事中は会話を控え、集中して嚥下に注意を向けることが大切です。
嚥下機能の評価を定期的に行い、機能の変化に応じてとろみの調整や食事形態の変更を検討します。言語聴覚士による嚥下訓練と併行することで、安全性をさらに高めることができます。
単調になりがちな流動食の味を工夫することで、食事の楽しみを維持できます。
味付けやアレンジのコツとして、だしを効かせることが基本です。昆布だし、かつおだし、鶏がらスープなどを使用することで、薄味でも満足感のある味わいを作ることができます。ハーブやスパイスも少量使用することで、風味を豊かにできます。
季節感を取り入れた味付けも効果的です。春は新緑を感じさせる淡い色合いと優しい味付け、夏はさっぱりとした酸味、秋は甘みのある根菜類の風味、冬は温かみのある味付けなど、季節に応じた工夫を行います。
温度の変化をつけることも重要で、冷たいスムージーと温かいスープを交互に提供することで、味覚の刺激を変化させることができます。また、見た目の色彩を工夫し、食欲を刺激することも大切です。
市販の流動食は様々な場所で購入でき、それぞれに特徴があります。
ドラッグストア、スーパー、通販、病院など購入場所によって取扱商品や価格が異なります。ドラッグストアでは専門的な介護食品が豊富に揃っており、薬剤師に相談しながら選択できるメリットがあります。大型ドラッグストアでは試飲コーナーを設置している店舗もあり、味を確認してから購入できます。
スーパーでは健康食品コーナーや介護食品コーナーで取り扱っており、日常の買い物と同時に購入できる利便性があります。ただし、種類は限定的な場合が多いです。通販では豊富な商品から選択でき、詳細な栄養成分や口コミを比較検討できます。まとめ買いによる割引もあり、継続使用には経済的です。
病院では医師の処方により医療用流動食を入手できます。保険適用となる場合もあり、最も安全で確実な方法です。栄養士による指導も受けられるため、初めて流動食を使用する場合には特におすすめです。
流動食は、咀嚼や嚥下に難しさを感じる方のための食事です。普通流動食、濃厚流動食、特殊流動食それぞれの特徴を理解し、個人の状況に応じて正しく選ぶことが大切です。家庭で作る場合は、安全性と栄養バランスに注意し、市販品も活用しながら、質の高い食事を提供しましょう。ぜひ本記事を参考に流動食を取り入れてみてください。
