マクロビオティックを理解するために、まず「陰陽」という考え方を知る必要があります。この考え方は複雑そうに見えますが、実はとてもシンプルな理論です。
陰陽とは「物事には両面があります」ということです。プラスとマイナス、昼と夜、光と影、男性と女性など、私たちのまわりにはすべて2つの相反する関係があります。これらは互いに必要とする関係で、一方があるからもう一方が存在します。
陰性の特徴は、冷たい、静か、拡散する、上向きのエネルギーを持つことです。夏野菜や果物、乳製品などが陰性に分類されます。一方、陽性の特徴は、温かい、動きがある、収縮する、下向きのエネルギーを持つことです。根菜類や塩、動物性食品などが陽性にあたります。
陰性の食材とは上に向かってのび、からだを冷やす作用があり、陽性の食材とは地中に向かってのび、からだを温める作用があると考えられています。例えば、夏のキュウリは体を冷やし、冬のゴボウは体を温めてくれます。私たちの体は無意識のうちに、暑い夏には冷たいものを欲し、寒い冬には温かいものを求めるように、自然とバランスを取ろうとしているのです。
マクロビオティックは、桜沢如一氏が、石塚左玄の「食物養生法」の考え方と、東洋思想のベースとなる中国の「易」の陰陽を組み合わせた、「玄米菜食」という自然に則した食事法を提唱したことからはじまりました。
桜沢如一さんは体が弱く、病気がちでした。しかし、食事を変えることで健康を取り戻すことができました。その経験をもとに、誰でも実践できる健康法として「マクロビオティック」を作り上げたのです。実は、日本で古くから親しまれている食事と考え方を、誰にでもわかりやすくまとめ直した理論なのです。
日本で生まれたこの考え方は、海外でも注目され、世界中の人々に愛されています。特にアメリカでは、健康を意識する人たちの間で大きく広まりました。
陰と陽は、どちらが良いとか悪いとかではありません。両方とも私たちの体に必要なエネルギーです。大切なのは、この2つのバランスを取ることです。
食材の陰陽を考えるとき、必ず2つ以上の対象を比べるのが鉄則です。ひとつの食材は比べる対象や見方によって変化するため、一概にどちらかの性質だけを持つとは言い切れないからです。例えば、同じ野菜でも、夏野菜と比べれば根菜は陽性ですが、肉類と比べれば陰性になります。
何と比べるかによって陰陽は変わるので、絶対的な答えはありません。その時々の状況や体調に合わせて、柔軟に判断することが大切です。
陰陽の考え方がわかったところで、実際にどう食材を選べばよいのでしょうか。そこで役立つのが「陰陽表」です。
陰陽表は、食材や調味料の陰陽バランスを視覚的に示したツールであり、マクロビオティックを実践する際に非常に役立ちます。まるで食材の地図のようなもので、どの食材がどんな性質を持っているかを一目で理解できます。
陰陽表を使うときは、完璧を求める必要はありません。あくまでも目安として使い、自分の体調や季節に合わせて調整することが大切です。最初は難しく感じるかもしれませんが、慣れてくると自然に判断できるようになります。
毎日の買い物で迷ったときに、「今日は体が冷えているから、陽性の食材を選ぼう」といった具合に活用してみてください。
より陰性が強い食材は極陰性で、より 陽性が強い食材は極陽性です。「精製されたお砂糖」は極陰性で、「精製されたお塩」は極陽性となります。食材を5つのグループに分けて考えることで、より詳しく理解できます。
食材の陰陽分類は以下の通りです。
極陰性:精製された白砂糖、アルコール、スパイス、化学調味料
陰性:夏野菜(トマト、キュウリ、ナス)、果物、牛乳、コーヒー
中庸:玄米、味噌、醤油、根菜類、豆類、海藻
陽性:自然塩、魚、卵、チーズ
極陽性:精製塩、赤身肉、加工肉
マクロビオティックでは、この陰性と陽性のバランスがとれた状態(中庸)を大切にしています。中庸の食材を中心にして、極端な食材は控えめにするのが基本です。
ただし、季節や体調によって必要な食材は変わります。夏は陰性の食材で体を冷やし、冬は陽性の食材で体を温めるといった具合に、柔軟に調整しましょう。
同じ食材でも、調理法によって陰陽の性質が変わります。調理法も陰と陽にわけることができます。サラダなど冷たいもの火をあまり通さないものは陰性。それに対してシチューのように、温かいもの、じっくり煮込むものは陽性と考えられます。
陰性の調理法には、生で食べる、蒸す、茹でる、冷やすなどがあります。これらの方法は食材をさっぱりと仕上げ、体を冷やす効果があります。夏の暑い日や、体がほてっているときに適しています。
陽性の調理法には、焼く、揚げる、炒める、長時間煮込む、圧力をかけるなどがあります。これらの方法は食材に熱を加え、体を温める効果があります。冬の寒い日や、体が冷えているときにおすすめです。
調味料の使い方でも陰陽は変わります。塩や味噌をしっかり効かせると陽性に、薄味にすると陰性に傾きます。その日の体調に合わせて、調理法や味付けを調整してみてください。
陰陽のバランスを考えるとき、なぜ「中庸」が良いとされるのでしょうか。その理由を詳しく見ていきましょう。
陰にも陽にも偏らない中間は「中庸(ちゅうよう)」といいます。そして、陰性・陽性の偏らず、なるべく中庸に近い状態でいることがマクロビオティックでは望ましいと考えます。
中庸とは、バランスの取れた状態のことです。体も心も安定していて、どちらにも極端に偏っていない状態を指します。この状態にいると、体調が安定し、気持ちも落ち着いています。
「陰陽バランス」がとれているとは、一定限度の「揺れ」がある状態。極端になったり、一つの状況に固定されたりせず、しなやかに動いている状態なのです。完全に動かない状態ではなく、適度に変化しながらもバランスを保っている状態が理想です。
極陰性と極陽性のものは、カラダへの負担が大きいので、出来るだけ避けた方が良いとしています。極端な食べ物ばかり食べていると、体と心のバランスが崩れてしまいます。
甘いものばかり食べていると、体が冷えて疲れやすくなったり、気分が落ち込みやすくなったりします。逆に、塩辛いものや肉類ばかり食べていると、体が緊張状態になり、イライラしやすくなることがあります。
陰性は、落ち込みやすい、ネガティブになりやすい、鬱になりやすい。陽性は、ハイテンションになりやすい、イライラしやすい。このように、食べ物は心の状態にも大きく影響します。
極端から極端に振れるような食生活を続けていると、体も心も疲れてしまいます。そのため、普段から中庸に近い食材を選ぶことが大切です。
玄米をはじめとした穀物を主菜とし、旬の野菜や海藻の入ったみそ汁、漬物を添えて食事をいただく、そういうシンプルな日本の食卓をベースとしています。中庸の代表的な食材をご紹介します。
玄米ご飯
マクロビオティックの基本中の基本です。白米と違って、ぬかや胚芽がついているため、栄養のバランスが取れています。消化もゆっくりで、血糖値の急激な上昇を防ぎます。
お味噌汁
大豆を発酵させた味噌と、海藻や野菜を組み合わせた料理です。発酵食品である味噌は消化を助け、体を温めてくれます。毎日飲むことで、体調を整える効果が期待できます。
煮物
野菜をじっくり火を通した料理です。火を通すことで陽性に傾き、体を温めてくれます。また、野菜の甘みが出て、自然な美味しさを楽しめます。
お漬物
野菜を発酵させた保存食です。乳酸菌が豊富で、腸内環境を整えてくれます。日本人が昔から食べてきた、体に優しい食べ物です。
マクロビオティックでは、一人一人の体質に合わせて食事を選ぶことが大切です。まずは自分の体質を知ることから始めましょう。
体型や行動、体調の特徴などか陰性か陽性かを分けて、その結果に応じて食べ物を選ぶことが肝心です。自分の体質をチェックしてみましょう。
陰性体質の特徴は以下の通りです。
・体が冷えやすい
・疲れやすい
・色白で細身
・甘いものが好き
・静かで内向的
・朝が苦手
陽性体質の特徴は以下の通りです。
・体温が高い
・エネルギッシュ
・筋肉質でがっちりした体型
・塩辛いものが好き
・活動的で積極的
・早起きが得意
冷え性やむくみを感じることが多い場合は、陰性体質の可能性があります。疲れやすさや消化不良も特徴です。逆に、体温が高く、ストレスや興奮を感じやすい場合は、陽性体質かもしれません。
多くの人は、どちらかに完全に偏っているわけではなく、両方の特徴を持っています。その日の体調や季節によっても変化するので、定期的にチェックしてみてください。
陽性の数が多い方は陽性体質。塩分(精製塩)や肉類などの陽性の強いものを食べ過ぎた人がなりやすい体質です。陰性の食品を多めにし、煮込んだ料理や塩分を控えましょう。体質に合わせた食事法をご紹介します。
陰性体質の人の食事法
・陽性の食材を多めに選ぶ
・しっかり火を通した料理
・適度な塩分を摂る
・温かい飲み物を心がける
・冷たいものは控えめに
陰性の数が多い方は陰性体質。白砂糖や化学添加物を多く食べ過ぎた人がなりやすい体質です。陽性の食品を多めに、水分を少なく、よく煮込んだ料理を食べましょう。
陽性体質の人の食事法
・陰性の食材でバランスを取る
・さっぱりした料理を増やす
・塩分は控えめに
・水分をしっかり摂る
・生野菜や果物を適度に
どちらの体質でも、中庸の食材を基本にして、体質に合わせて微調整することが大切です。
四季のある日本では、季節ごとの旬の食材をとることで、からだのバランスがとれるという考え方です。季節に合わせて食材を選ぶことも重要です。
夏は体を冷やす食材を選びましょう。トマト、キュウリ、ナスなどの夏野菜は、暑い季節に体を冷やしてくれます。また、スイカやメロンなどの果物も、水分補給と同時に体を冷やす効果があります。
冬は体を温める食材が必要です。大根、人参、ゴボウなどの根菜類は、寒い季節に体を温めてくれます。また、しょうがやネギなどの薬味も、体を温める効果があります。
春と秋は、体を穏やかに整える食材を選びます。新玉ねぎや新じゃがいもなどの春野菜、さつまいもやかぼちゃなどの秋野菜がおすすめです。
旬の食材は、その季節に必要な栄養や効果を持っています。自然のサイクルに合わせて食事をすることで、体調を整えやすくなります。
マクロビオティックでは、食べ物が体だけでなく、心にも大きな影響を与えると考えられています。毎日の食事で、気持ちも変えることができるのです。
食の陰陽のバランスが上手に取れるようになれば、カラダだけではなく、ココロのバランスも取りやすくなります。ココロを、食で変えることが出来るのです。
甘いものを食べすぎると、一時的に気分が良くなりますが、その後急激に血糖値が下がり、疲れや憂鬱な気分になることがあります。例えば、”嫌なことがあったわけでもないのに、何故か落ち込んでしまう…” そんな時は、食を振り返ってみてください。
逆に、塩辛いものや肉類ばかり食べていると、気持ちが高ぶりやすくなり、イライラしやすくなることがあります。これらの食材は体を緊張状態にするため、心も落ち着かなくなるのです。
中庸の食材を中心にした食事を続けていると、気持ちが安定し、穏やかな心で過ごせるようになります。感情の波が少なくなり、ストレスにも強くなります。
食べ物は、体の状態にも直接影響します。陰性の食材を食べすぎると、体が冷えて疲れやすくなります。また、むくみやすくなったり、集中力が低下したりすることもあります。
陽性の食材を適度に摂ると、体が温まり、エネルギーが湧いてきます。しかし、摂りすぎると体が緊張状態になり、肩こりや頭痛の原因になることがあります。
自分の体の変化に注意を向けることで、どんな食材が自分に合っているかがわかるようになります。食事の後の体調や気分の変化を観察してみてください。
「今日は体が軽いな」「なんだか疲れやすいな」といった小さな変化も大切なサインです。体の声に耳を傾けることで、自分に合った食事を見つけられます。
マクロビオティックは、食事だけでなく、生活全体を見直すものです。食事以外の要素も大切にしながら、無理のない範囲で実践しましょう。
適度な運動や十分な睡眠も、体と心のバランスを保つために重要です。ストレスを溜めすぎないよう、リラックスする時間を作ることも大切です。
完璧を目指す必要はありません。8割できれば十分です。ストレスを感じながら続けるよりも、楽しみながら少しずつ改善していく方が長続きします。
マクロビオティックの陰陽を理解したら、いよいよ実践してみましょう。最初は簡単なことから始めて、徐々に慣れていけば大丈夫です。
食事バランスのガイドラインは重要とされ、以下の割合で食物摂取バランスが考えられています。
・玄米などの未精製全粒穀物:50~60%
・野菜:25~30% ・豆・海藻:10~15%
・その他(果物・ナッツ類など):5~10%。
マクロビオティックの基本の4つの柱は以下の通りです。
玄米ご飯
白米を玄米に変えるだけで、栄養価がアップします
お味噌汁
毎日1杯、具材を変えて楽しみましょう
お漬物
発酵食品で腸内環境を整えます
煮物
野菜をじっくり煮込んで、体を温めます
最初から完璧を目指す必要はありません。白米に少しずつ玄米を混ぜることから始めたり、週に数回だけ実践したりするのも良いでしょう。大切なのは、無理をせずに続けることです。
市販のお弁当を買うときも、できるだけ野菜が多く、揚げ物が少ないものを選ぶなど、小さな意識の変化から始めてみてください。
実際の1日の食事例をご紹介します。これを参考にして、自分なりにアレンジしてみてください。
朝ご飯の献立例
・玄米ご飯
・わかめと豆腐のお味噌汁
・ぬか漬け
・のりの佃煮
朝は体が陰性に傾いているので、温かい食事で体を目覚めさせましょう。お味噌汁で体を温め、発酵食品で腸を整えます。
お昼と夜の考え方
お昼は活動的な時間なので、しっかりとエネルギーを補給できる食事を心がけます。夜は消化の良い、軽めの食事にして、体を休める準備をします。
間食のコツ
甘いものが欲しくなったら、白砂糖を使った菓子ではなく、干し芋や栗、自然な甘味料を使った手作りおやつを選びましょう。ナッツ類も適量であれば良い栄養源になります。
水分補給は、冷たい飲み物よりも常温や温かい飲み物を選びます。番茶やほうじ茶、白湯などがおすすめです。
陰陽を意識した調理のポイントをお伝えします。これらを覚えておけば、普段の料理でも陰陽のバランスを取りやすくなります。
火加減を意識することが大切です。じっくりと時間をかけて調理すると陽性に、さっと短時間で調理すると陰性に傾きます。その日の体調に合わせて、火の通し方を調整してみてください。
調味料は天然ものを選びましょう。精製された調味料よりも、昔ながらの製法で作られた調味料の方が、体に優しく作用します。味噌、醤油、自然塩、米酢などを基本にします。
時間をかけて調理すると、食材の甘みが出て、自然な美味しさを楽しめます。圧力鍋を使ったり、土鍋でじっくり炊いたりすることで、より陽性の効果を得られます。
マクロビオティックが推奨する食生活を実践すると心身に様々な変化が起こります。疲れにくくなったり、風邪をひきにくくなったり、肌の調子が良くなったりします。
これは、体のバランスが整うことで、自然治癒力が高まるからです心が安定することも大きな変化です。イライラしにくくなったり、落ち込みにくくなったり、感情の波が穏やかになります。食べ物が心に与える影響は、想像以上に大きいのです。
毎日が楽になるという感覚も得られます。体調が安定すると、日常生活での疲れやストレスが軽減され、より充実した毎日を送れるようになります。
体調不良や心の不調に悩んでいるあなたも、今日から少しずつ始めてみませんか。陰陽のバランスを意識した食事で、きっと体と心に良い変化が現れるはずです。完璧を目指さず、楽しみながら続けることで、より健康で充実した毎日を手に入れることができるでしょう。