マクロビオティックという言葉を聞いたことがあっても、実際に何なのか分からない方も多いでしょう。まずは基本的な知識から学んでいきましょう。
マクロビオティックとは、「マクロ=大きな」「ビオ=生命」「ティック=術、学」の3つの言葉の合成語で、語源は古代ギリシャ語「マクロビオス(’偉大なる生命’あるいは’長寿’の意)」であり、「長く健康的に生きるための方法」といった意味を持ちます。
意外にも思えるかもしれませんが、アメリカを中心に世界に広まったマクロビオティックですが、実は日本発祥のものなのです。この食事法を確立したのは、桜沢如一氏(1893~1966)が、石塚左玄の「食物養生法」の考え方と、東洋思想のベースとなる中国の「易」の陰陽を組み合わせた、「玄米菜食」という自然に則した食事法を提唱したことからはじまりました。
この考え方が海外で注目され、海外のスーパーモデルやハリウッドスターが健康のためにマクロビオティック(マクロビ)を取り入れたことから、日本でも知られるようになっていきました。つまり、私たち日本人の伝統的な食事法が、世界を一周して戻ってきたということなのです。
マクロビオティックを理解するには、3つの基本原則を知ることが重要です。これらの考え方を覚えておけば、日々の食事選びが自然と健康的になります。
身土不二(しんどふじ)という考え方は、「身体と住む環境(土地)を切り離すことは出来ない。住んでいる土地の食べ物を食べることで、の土地に適応した身体になり、健康を保つことが出来る」という考えです。
この原則に従うと、地元で採れた旬の食材を選ぶことが健康への第一歩となります。例えば、熱帯地域でとれるフルーツには体内の熱を下げる働き、寒い地域でとれる野菜には体内を温める働きがあり、 四季のある日本では、季節ごとの旬の食材をとることで、からだのバランスがとれるという考え方なのです。
現代では一年中様々な食材が手に入りますが、海外から輸入された食品は、私たちの口に入るまでに時間がかかりますよね。すると鮮度を保つために農薬を増やしたり、添加物を加えたりしなければなりません。そのため、可能な限り国産の旬の食材を選ぶことで、自然と体に優しい食生活につながるのです。
一物全体(いちぶつぜんたい)とは、ひとつのものを丸ごと食べる、という意味です。 食材そのものは、丸ごとでバランスがとれており、穀物なら精白していない玄米、野菜なら皮や葉にも栄養があり、 全てを摂ることでからだのバランスがとれるという考え方です。
この考え方の素晴らしいところは、調理の手間が大幅に省けることです。野菜の皮はむかなくていい、アクも取らなくていい、水にさらしたり、下茹でしたりも必要ないということなのです。つまり、時短調理にもつながる環境に優しい考え方といえます。
具体的には、大根は葉っぱまで使い切る、人参は皮ごと調理する、玄米は精製していないものを選ぶといった実践方法があります。これにより、今まで捨てていた部分の栄養も摂取でき、食材を無駄なく使い切ることができます。
陰陽(いんよう)の考え方は、マクロビオティックの中でも特に重要な概念です。陰性とは遠心力・静かなもの・冷たいもの・水分の多いものなどを指します。 陽性とは求心力・動きのあるもの・熱いもの・水分の少ないものなどを指します。
食材で考えると、陰性の食材とは上に向かってのび、からだを冷やす作用があり、陽性の食材とは地中に向かってのび、からだを温める作用があると考えられています。つまり、夏にはきゅうりやトマトで体を冷やし、冬にはゴボウや大根で体を温めるという自然の理にかなった食べ方ができるのです。
重要なのは、マクロビオティックではこの陰性と陽性のバランスがとれた状態(中庸)を大切としていますということです。どちらかに極端に偏るのではなく、バランスよく摂取することで、心身の調和を保つことができます。
マクロビオティックでは、食事のバランスが非常に重要視されています。健康的な生活を送るための基本的な食事構成を学んでいきましょう。
特に食事バランスのガイドラインは重要とされ、以下の割合で食物摂取バランスが考えられています。
・玄米などの未精製全粒穀物:50~60%
・野菜:25~30% ・豆・海藻:10~15%
・その他(果物・ナッツ類など):5~10%
この割合は、私たちの体の構造からも理にかなっています。人間の歯は穀物をすりつぶす役割のある臼歯が最も多い20本、野菜や果実を切る門歯が8本、肉や魚を噛み切るための犬歯が4本という構造です。 そのため、穀物を中心に野菜を摂り、肉や魚を少量食べることが人間にとって適した食事法ともいえるのです。
穀物中心の食事と聞くと「太りそう」と心配になる方もいるでしょう。しかし、全粒穀物には、精製された穀物にはない栄養分が多く含まれています。 また、全粒穀物はよく噛んで食べる必要があるため、通常よりも少量で満腹感が得られます。
実際、玄米は白米と比べて食物繊維が約6倍、ビタミンB1が約8倍含まれており、栄養価の面でも非常に優秀な食材です。よく噛んで食べることで消化も良くなり、自然と食べ過ぎを防ぐことができるのです。
マクロビオティックの基本である玄米の炊き方をマスターしましょう。最初は難しく感じるかもしれませんが、コツを覚えれば簡単に美味しく炊けるようになります。
炊飯器を使った玄米の炊き方は、慣れてしまえば白米と大きく変わりません。まずは基本的な手順を覚えてください。
玄米を炊く際に重要なのが洗い方です。玄米を両手で軽くこすって洗います。 具体的には、「玄米をすくって、両手で挟むようにして軽く3回こする」という作業を合計10回繰り返します。この方法は「拝み洗い」と呼ばれ、表面の汚れを落とすだけでなく、米に細かい傷をつけて水を吸いやすくする効果があります。
次に重要なのが浸水時間です。種皮に覆われた玄米は、たっぷりと水を含むのに時間がかかります。そのため最低でも一晩は水に浸すのが理想的です。朝に炊きたい場合は前日の夜に、夜に炊きたい場合は朝のうちに浸水を開始しましょう。
水加減については、玄米を炊飯するときの水加減は、玄米の容量の1.5倍が目安です。例えば、1合(180cc)の場合は270ccが目安と言えます。炊飯器に玄米用の目盛りがあれば、それに合わせれば簡単です。
炊飯器で炊く際の手順は以下の通りです。
1.玄米を拝み洗いで10回程度こすり洗い
2.6時間以上浸水(夏場は冷蔵庫で)
3.水加減を玄米の1.5倍に調整
4.玄米モードで炊飯(なければ通常モード)
5.炊き上がったら10分蒸らす
6.これらの手順を守れば、ふっくらとした美味しい玄米が炊き上がります。
鍋で炊く玄米は、炊飯器よりもさらに美味しく仕上がると言われています。土鍋や圧力鍋を使った炊き方をご紹介します。
玄米を炊くときには塩を加えたほうが、食べやすくなり、やわらかく炊けると思います。塩の分量は共通で、2合なら小さじ1/2、3合なら小さじ2/3が目安です。塩を加えることで、玄米特有の硬さが和らぎ、甘みも増します。
水加減は炊く道具によって調整が必要です。炊くときの水分量は、炊く道具によって変わってきます。浸水させた玄米を一度ざる上げしてしっかりと水気を切って鍋に入れ、そこに『圧力鍋なら2合で400ml、3合で600mlの水』、『土鍋なら2合で500ml、3合で750mlの水』を加えます。
圧力鍋は蒸気が逃げないため水は少なめ、土鍋は水分が蒸発しやすいため多めに設定します。どちらの方法でも、強火で沸騰させた後、弱火で時間をかけて炊くことが美味しく炊くコツです。
忙しい時でも玄米を食べたい場合の時短テクニックをご紹介します。
一つ目は「びっくり炊き」という方法です。この方法だと、玄米を洗ってすぐに水にもつけずに炊き始める事ができ、普通の炊飯と同じくらいの時間で玄米を炊くことができちゃいます。浸水時間を省ける画期的な方法で、急に玄米が食べたくなった時に便利です。
二つ目は白米との混合炊きです。白米2:玄米1(白米2合なら玄米1合)の割合で混ぜて炊くことで、玄米初心者でも食べやすく、栄養価もアップします。浸水時間も白米に合わせて短縮でき、家族にも受け入れられやすい方法です。
三つ目は塩の効果的な使用です。玄米の独特な苦みや臭みが気になる方は、玄米2合に対して小さじ1/2程度の塩を加えることで軽減されます。また、よりふっくらと仕上がりますよ。塩を加えることで、炊き時間の短縮にもつながります。
マクロビオティックでは、化学調味料を使わずに自然のうま味を大切にします。基本となるだしの作り方を覚えて、料理の幅を広げましょう。
マクロビオティックで使う基本的なだしは、昆布と干し椎茸です。だしは、お味噌汁やおひたしなど色々な料理に利用することができますので常時ストックしておくのも便利です。このだしがあれば、様々な料理に深いうま味を加えることができます。
水出し法は最も簡単で、忙しい方にもおすすめです。清潔な密閉容器に水2カップを入れ、表面をさっと拭き取った昆布(10cm程度のもの1枚)と干し椎茸2枚を入れます。容器を冷蔵庫に入れて6時間からひと晩ほど置いておきます。一晩で美味しいだしが完成し、翌日には使い切るようにします。
煮出し法はより濃厚なだしが取れます。鍋に水2カップを入れ、表面をさっと拭き取った昆布(10cm程度のもの)と干し椎茸2枚を入れ中火にかけます。 煮立つ直前に昆布を鍋から引き上げ、その10分後に椎茸を引き上げます。この方法で作っただしは、冷蔵庫で3〜4日保存可能です。
だしを取った後の昆布と椎茸も、マクロビオティックの「一物全体」の考えに従って無駄にしません。昆布は細切りにして煮物に、椎茸は刻んで炒め物や煮物の具材として活用できます。このように、食材を余すことなく使い切るのもマクロビオティックの醍醐味です。
マクロビオティックの基本を学んだところで、実際に作れる簡単レシピをご紹介します。どれも特別な材料は必要なく、今日からでも始められるものばかりです。
甘い野菜のスープは、マクロビ超定番の料理で、疲れた体を癒してくれる優しい味です。
使用する材料は、玉ねぎ、キャベツ、かぼちゃ、人参を各同量用意します。作り方は簡単ですが、できるだけ時間をかけて作ってください。信じられないくらい甘いスープになり、疲れた体を癒してくれます。
作り方は以下の通りです。
1.野菜をすべてみじん切りにする
2.鍋に玉ねぎ、キャベツ、かぼちゃ、人参の順に層になるよう詰める
3.野菜の3倍量の水を静かに注ぐ
4.強火で沸騰させた後、弱火でコトコト煮込む
5.最後に野菜から煮汁だけを漉し取る
このスープは夕方3時から6時(おやつの時間)の間の空腹な時に温めて飲むと もっとも効果的。 この時間にいちばん胃・すい臓・脾臓が働いているからです。体の疲れを感じた時の特効薬として活用できます。
玄米おにぎりは、マクロビオティックの基本中の基本です。炊きたての玄米に自然海塩をまぶして握るだけで、素材の美味しさを十分に味わえます。
ポイントは塩の選び方です。精製塩ではなく、ミネラル豊富な自然海塩を使うことで、玄米の甘みが引き立ちます。海苔も無添加のものを選び、玄米のプチプチとした食感と海苔の風味を楽しみましょう。
具材として、昆布の佃煮や梅干し、ごま塩などを入れると、バリエーションが広がります。どれも保存がきくものなので、常備しておくと便利です。
季節野菜の煮物は、マクロビオティックの陰陽バランスを実践するのに最適な料理です。冬には陽性の根菜類を中心にした煮物で、体を芯から温めましょう。
大根、人参、ごぼうの組み合わせは定番で、それぞれの甘みが調和して美味しい煮物になります。調味料は醤油、みりん、酒を基本とし、昆布と椎茸のだしでうま味をプラスします。
煮る時間は野菜の硬さに合わせて調整し、ごぼうから先に入れて最後に大根を加えるなど、火の通りを考慮することが大切です。じっくり煮込むことで、野菜本来の甘みが引き出されます。
豆腐の味噌汁は、マクロビオティックの基本的な汁物です。前述の昆布と椎茸のだしを使い、化学調味料に頼らない自然な美味しさを追求します。
豆腐は絹ごしよりも木綿豆腐の方が、マクロビオティック的には好ましいとされています。わかめなどの海藻類を加えることで、ミネラルバランスも整います。
味噌の溶き方にもコツがあります。少量のだしで味噌を溶いてから鍋に戻すことで、味噌の風味を損なわずに仕上げられます。沸騰させると風味が飛んでしまうので、味噌を入れたら火を止めることも重要です。
ひじきの煮物は、海藻のミネラルを手軽に摂取できる優れた常備菜です。週末など、まとまった時間があるときなど、常備菜を作っておくという方も多いかもしれません。
ひじきの戻し方から始めます。
1.乾燥ひじきを水で30分程度戻す
2.しっかりと水気を切る
3.人参は細切り、油揚げは短冊切りにする
4.油で炒めてから調味料を加える
調味料は醤油、みりん、酒を基本とし、砂糖の代わりに米飴やメープルシロップを使うことで、マクロビオティックらしい優しい甘みに仕上がります。作り置きしておけば、3〜4日は冷蔵庫で保存可能です。
マクロビオティックでは、調味料選びも非常に重要です。毎日使うものだからこそ、体に優しく美味しいものを選びましょう。
伝統製法の味噌や醤油は、マクロビオティックの基本調味料です。原材料にこだわり、伝統の製法で醤油や味噌を作るには1〜3年かかるのが普通です。しかし、大量生産するために粗悪な原材料を使い、味をごまかすための食品添加物が入ったものもあります。
良質な調味料を選ぶポイントは以下の通りです。
1.原材料表示をしっかり確認する
2.添加物の入っていないものを選ぶ
3.伝統的な製法で作られたものを選ぶ
4.国産の原料を使用したものを優先する
自然海塩の選び方も重要です。精製された白砂糖や塩、白米よりもミネラルや食物繊維たっぷりの玄米や全粒粉小麦、自然海塩、黒砂糖を選びましょう。精製塩にはないミネラルが豊富に含まれており、料理全体の味わいを深くしてくれます。
みりんや酢についても、本格的なものを選ぶことが大切です。本みりんは米、米麹、焼酎のみで作られたもので、みりん風調味料とは全く異なります。酢も米酢や玄米酢など、穀物由来のものを選ぶことで、マクロビオティックの考えに沿った調味が可能になります。
砂糖の代替品としては、マクロビオティックでは、精製されていない米飴、メープルシロップなど血液中に穏やかに吸収される多糖類を甘味料として使います。これらの甘味料は血糖値の急激な上昇を抑え、体に優しい甘さを提供してくれます。
マクロビオティックを実践することで期待できる効果について、多くの実践者から報告されている変化をご紹介します。
消化機能の改善は、多くの人が最初に感じる変化です。玄米や野菜中心の食事により、腸内環境が整い、便通が改善されることが報告されています。食物繊維の摂取量が増えることで、体内の老廃物が効率よく排出されるようになります。
肌質の変化も見逃せない効果の一つです。添加物や精製食品を避けることで、肌荒れが改善し、自然な艶とハリが戻ってくることが多く見られます。特に食材を丸ごと食べることで、今まで摂れていなかった栄養素が自然と摂れるようになります。
エネルギーレベルの向上も重要な変化です。血糖値の急激な変動が少なくなることで、一日を通じて安定したエネルギーを維持できるようになります。午後の眠気や疲労感が軽減され、集中力の持続時間も延びることが報告されています。
心の安定も見逃せない効果です。マクロビオティックは、心の安定にも繋がるといわれています。 胃腸に負担のかかる乱れた食生活では、カラダだけでなく心にも悪影響を与えるのです。ヘルシーで腹八分目の食事を基本とするため、胃腸の負担が少なく、気持ちが明るくなったり、ストレスに強くなったりするといわれています。
マクロビオティックの食材を購入できる場所をご紹介します。最近では様々な場所で手に入るようになり、始めやすくなりました。
自然食品店は、マクロビオティックの食材が最も充実している場所です。有機野菜、玄米、伝統製法の調味料、海藻類など、必要な食材がすべて揃います。店員さんも知識が豊富なので、初心者でも安心して相談できます。
オンラインショップの活用も便利です。マクロビオティック専門の通販サイトでは、厳選された食材を自宅まで届けてもらえます。重い玄米や調味料のまとめ買いにも適しており、忙しい方には特におすすめです。
一般のスーパーでの選び方も覚えておくと便利です。最近では、オーガニック食品コーナーを設けているスーパーも増えています。玄米、有機野菜、無添加の調味料など、基本的な食材は一般のスーパーでも入手可能です。商品の原材料表示をしっかりチェックすることが重要です。
農家直売所の活用は、身土不二の実践に最適です。地元で採れた新鮮な野菜を手に入れることができ、生産者の顔が見えるので安心です。季節ごとの旬の野菜を知る良い機会にもなり、マクロビオティックの考え方を深く理解することにもつながります。
マクロビオティックは決して難しいものではありません。身土不二、一物全体、陰陽調和という3つの基本原則を理解し、玄米を中心とした食事を心がけるだけで、今日からでも始められます。完璧を求めず、できることから少しずつ実践していくことが継続の秘訣です。
美味しい玄米の炊き方を覚え、昆布と椎茸のだしを活用し、旬の野菜を丸ごと使った料理を楽しむことで、体も心も健康になっていくでしょう。家族みんなで取り組めば、食卓がより豊かになり、健康的なライフスタイルが自然と身についていきます。あなたも今日から、マクロビオティックの素晴らしい世界を体験してみませんか。