現代の健康志向の高まりとともに、玄米菜食という食事法が注目を集めています。
玄米菜食とは、精白されていない玄米を主食とし、野菜を中心とした食事スタイルのことです。玄米は精白米に比べて栄養価が高く、食事法は自然のエネルギーを取り入れ、体に優しい食材を選ぶことがテーマです。動物性の食品をできるだけ避け、植物性の食材を中心に構成されているのが特徴です。
玄米菜食とマクロビオティックは密接な関係があります。玄米菜食はマクロビオティックの基本的な考え方を取り入れた、よりシンプルな食事法といえるのです。マクロビオティックが食事だけでなくライフスタイル全般にわたる哲学であるのに対し、玄米菜食は食事に特化した実践的なアプローチと位置づけられています。
この食事法が現代人に必要な理由は、現代の食生活の問題点にあります。現代の食生活はたんぱく質、動物性脂肪分、精製糖の摂り過ぎ、食事の食べ過ぎなどにより健康のレベルが落ちてきています。玄米菜食は、これらの問題を解決し、本来の健康な体を取り戻す手助けをしてくれる食事法として期待されています。
マクロビオティックの歴史を知ることで、その深い意味を理解できます。
マクロビオティックは、桜沢如一氏(1893~1966)が、石塚左玄の「食物養生法」の考え方と、東洋思想のベースとなる中国の「易」の陰陽を組み合わせた、「玄米菜食」という自然に則した食事法を提唱したことからはじまります。石塚左玄は明治時代の軍医で、食べ物で病気を改善する「食物養生法」を提唱しました。
桜沢如一は、この食養学に東洋の陰陽思想を加えて独自の理論を構築しました。桜沢如一は石塚左玄(明治時代の軍医)の食養生論によって自らの体質を改善し、健康と食の関係を深め、独自の食事法「マクロビオティック」を確立しました。その後、世界平和を目指して海外に普及活動を行ったのです。
興味深いことに、マクロビオティックが体系化され、欧米を中心に広まったのは1950年以降で、日本発祥の考え方ですが、初めに広く受け入れられたのは欧米のほうが先でした。現在では逆輸入のような形で日本にも浸透し、多くの人々に実践されています。
日本古来の食智慧との関係も深く、一汁三菜の食事や季節の食材を大切にする考え方は、マクロビオティックの基本理念と一致しています。
マクロビオティックの実践には、三つの重要な原則があります。
①身土不二:地産地消の重要性
身土不二とは、人間も植物も生まれた環境と一体という意味です。例えば、熱帯地域でとれるフルーツには体の熱を下げる働き、寒い地域でとれる野菜には体を温める働きがあり、四季のある日本では季節ごとの旬の食材をとることで体調をととのえることができるという考え方です。
この原則は、現代の環境問題とも関連しています。地元で採れた食材を消費することで、輸送によるCO2削減にもつながり、環境に優しい生活を実現できます。
②一物全体:食材を丸ごと活用
一物全体とは、ひとつのものを丸ごと食べるという意味です。食材そのものは丸ごとでバランスがとれており、穀物なら精白していない玄米、野菜なら皮や葉にも栄養があり果実だけでなく全てを摂取することで体に必要なものを得られるという考え方です。
この実践により、食材の栄養を最大限に活用でき、同時に食品ロスの削減にも貢献できます。野菜の皮には多くの栄養素が含まれているため、安全な食材を選んで皮ごと調理することが推奨されています。
③陰陽調和:バランスの取り方
陰陽は東洋の伝統的な世界観であり、マクロビオティックの考え方の柱をなすものです。食べ物でいえば、身体を締めるものが陽性で、緩めるものは陰性です。身体を温めるものが陽性で、冷やすものは陰性です。
陰陽のバランスを取ることで、体調や季節に応じた最適な食事を選択できるようになります。夏には陰性の食材で体を冷やし、冬には陽性の食材で体を温めるという自然な調整が可能になります。
玄米の優れた栄養価について詳しく見ていきましょう。
玄米に多く含まれているのがビタミンB群(特にビタミンB1)です。ビタミンB群は体の中でエネルギーを創り出すために必要不可欠な栄養素で、中でもビタミンB1は糖質をエネルギーに変える際に必要なものです。白米と比較すると、玄米にはビタミンB1が約4倍含まれており、これが疲労回復に大きく貢献します。
食物繊維の含有量も注目すべき点です。玄米に含まれている食物繊維は白米の約6倍で、「不溶性食物繊維」です。これは腸内で水分を吸収して膨らみ、腸壁を刺激し「蠕動(ぜんどう)運動」を活発にし、お通じを良くしてくれます。
フィチン酸について正しく理解することも重要です。玄米に含まれるフィチンには強力なキレート作用があり、体内にある有害な物質と結びついて体外に排出する働きがあります。一方で、ミネラルも一緒に排出する可能性があるため、バランスの取れた食事を心がける必要があります。
消化吸収については、玄米は白米よりも時間がかかりますが、その分満腹感が長続きし、血糖値の急激な上昇を抑える効果があります。よく噛んで食べることで、消化を助け、栄養の吸収を高めることができます。
玄米菜食がもたらす体への効果を具体的に解説します。
玄米でデトックス効果が得られるのは玄米に含まれているフィチンの働きによります。フィチンは強力なキレート作用を持っており、身体に有害な物質と結びついて体外に排出する働きがあります。このメカニズムにより、体内に蓄積された重金属や化学物質の排出が促進されます。体内に溜まった毒素の多くは便から排出されるため、デトックスには腸内環境を整えることが大切です。
玄米菜食を継続すれば、艶と張りのある肌を保つことができます。バランスのとれた栄養を摂取することで、肌質もアップするでしょう。ビタミンB群や食物繊維の豊富な摂取により、肌の新陳代謝が活発になり、内側からの美しさを実現できます。玄米菜食は老化を防ぐ効果も期待できるため、いつまでも若々しさを保つ秘訣となるでしょう。
玄米菜食にしてから2週間ぐらいたったころ、食事をするごとに、便が出るようになったのです。しかもご飯食べて1,2時間以内には。1日2食なので、1日2回、しっかりと出るようになりました。
多くの実践者が、2週間程度で便通の改善を実感しています。食物繊維の豊富な摂取と規則正しい食事により、腸内環境が整い、自然なお通じが促されます。
玄米に含まれるビタミンEには抗酸化作用があり、活性酸素の除去により肌の老化を防ぎます。また、ビタミンB群は肌の新陳代謝を促進し、健康な肌細胞の生成をサポートします。
玄米は白米よりも栄養価が高く、エネルギーを効率的に作り出すことが可能です。そのため、疲労を回復する力も十分備えることができ、いつでもパワフルに活動することができます。
持続的なエネルギー供給により、午後の眠気や疲労感が軽減され、一日を通して安定したパフォーマンスを維持できるようになります。
玄米菜食を始めるための具体的な手順を説明します。
玄米の選び方と購入場所の基本知識は以下になります。
1.玄米食用として販売されている商品を選ぶ
2.有機栽培や自然栽培のものを優先する
3.信頼できる生産者や販売店から購入する
4.新米の時期に購入して冷暗所で保存する
「玄米食用玄米」と「精米用玄米」の違いがあります。「精米用玄米」は、「玄米を自分で精米して白米にする」前提の玄米で、「玄米食用に選別した玄米」は別物です。購入時には必ず玄米食用と表示されているものを選ぶことが重要です。
玄米食用は、そのまま炊いて食べることを前提として選別・処理されています。一方、精米用は精米機にかけることを前提としているため、石や異物の除去が不十分な場合があります。最近では、玄米食用の玄米も手軽にネットなどで買えるようになって来ました。
玄米を炊くときの水分量は、炊く道具によって変わってきます。圧力鍋なら2合で400ml、3合で600mlの水、土鍋なら2合で500ml、3合で750mlの水を加えます。
基本の水加減は玄米の1.5倍ですが、炊飯器の場合は玄米専用の目盛りに合わせて調整します。塩を少量加えることで、玄米特有のクセが和らぎ、食べやすくなります。浸水時間は6〜7時間以上が必要で、朝炊くなら前日の夜に洗って浸水させるとよいでしょう。
突然完全に切り替えるのではなく、段階的に移行することをおすすめします。最初は白米と玄米を1:1で混ぜ、慣れてきたら玄米の割合を増やしていきます。分づき米(3分づき、5分づき、7分づき)を利用するのも良い方法です。数字が大きくなるにつれて糠と胚芽の量が減り、白米に近づいていきます。
マクロビオティックの基本的な料理方法と献立を紹介します。
一汁三菜の基本構成の要素は以下になります。
・玄米ご飯(主食)
・味噌汁(汁物)
・主菜(豆腐や豆類の料理)
・副菜(野菜の煮物や和え物)
・漬物(発酵食品)
この構成により、栄養バランスの取れた食事を実現できます。主菜は動物性食品を使わず、植物性たんぱく質を中心とした料理にします。汁物は野菜の具がたくさん入った味噌汁が一番望ましいとされています。
マクロビオティックの場合、動物性の食品は避けるため、出汁の中心は昆布と干しシイタケになります。水出しの場合、密閉容器に昆布と干しシイタケを一晩漬けておくだけと簡単です。
水出し法では、清潔な密閉容器に水2カップ、さっとふいた5×10cmの昆布、干し椎茸2枚を入れ、冷蔵庫で6時間以上置きます。翌日には使い切るようにしましょう。煮出し法では、鍋に水2カップ、昆布、干し椎茸を入れ中火にかけ、煮立つ直前に昆布を引き上げ、その10分後に椎茸を引き上げます。
玄米は白米よりもまとまりにくいため、ラップを使ってしっかりと握ることがポイントです。温かいうちに塩を少量つけて握ると、形が整いやすくなります。
具材には、梅干し、ごま塩、昆布の佃煮など、マクロビオティックに適した材料を選びます。玄米おにぎりにごま塩を掛けるのは相性抜群の組合せで、玄米に不足しているミネラル・カルシウム・ビタミン等を補ってくれるので栄養バランスが良くなります。
季節の野菜を使った煮物、蒸し物、和え物を中心にします。根菜類は体を温める陽性の食材なので、冬季に積極的に取り入れます。葉菜類は夏季に多く摂取し、季節に応じた調理法を選択します。
調味料は、醤油、味噌、塩、米酢など、伝統的な製法で作られたものを使用し、化学調味料は避けます。野菜は無農薬の自然農法や有機栽培で作られたものを優先し、できるだけ近隣の地域で収穫された、季節ごとの食べものを食べるのが望ましいとされています。
七号食について、その実践方法と効果を詳しく解説します。
七号食とは、マクロビオティックの創始者桜沢如一が提唱した食事法で、穀類だけを摂取するというものです。10日間、朝・昼・夜の3食を玄米のみを食べて過ごします。究極のデトックス法として、多くの人に実践されています。
実践方法は非常にシンプルです。玄米ごはんの量や回数はいくらでもOK。味付けとして、ごま塩と無添加の梅干しは摂取しても構いません。カフェインやアルコールの入った飲み物は禁じられていますが、それ以外のお茶やお水は飲むことができます。
期間は10日間の実践期間と、その後の回復食期間から構成されます。基本食(玄米ごはんで一汁二菜程度の食事)に戻すまで、数日かけて慣らしていくことが良いのです。急激に通常の食事に戻すと身体がびっくりして、大抵の人が下痢をします。
回復食の重要性は非常に高く、七号食という特殊な食生活を10日間を過ごした後なので、段階的に食材を増やしていくことで、体への負担を最小限に抑えられます。回復食期間中は、味噌汁や野菜を少しずつ加えて、徐々に通常の食事に戻していきます。
玄米菜食を実践する際の重要な注意点を説明します。
栄養不足を防ぐ方法の要素は以下になります。
1.バランスの取れた植物性食品の摂取
2.定期的な健康チェック
3.症状が出た場合の適切な対応
4.専門家への相談
玄米菜食では、動物性のタンパク質を避けることが推奨されていることから、その分どうしても不足しやすい栄養素があります。具体的には、タンパク質、ビタミンB12、鉄分などが不足しやすいといわれています。これらの栄養素が不足すると、体にさまざまな悪影響が及ぶので注意が必要です。
タンパク質の補給方法として、大豆製品を積極的に活用します。高野豆腐、納豆、油揚げなどを積極的に食事に取り入れることが重要です。豆腐、テンペ、豆乳なども良質な植物性たんぱく質源となります。マクロビオティックでは、大豆やひよこ豆、小豆などの豆類をはじめ、大豆発酵食品のテンペ、小麦のタンパク質(グルテン)を原料とした麩などをタンパク源として使います。
ビタミンB12と鉄分対策については、特に注意が必要です。ビタミンB12は主に動物性食品に含まれるため、サプリメントの検討や、発酵食品の積極的な摂取が推奨されます。鉄分については、植物性の鉄分は、体内に吸収されにくいという特徴があります。そのため、玄米菜食では、鉄分を含む食品を多めに摂取するように気をつけるべきです。
妊娠中・成長期の配慮として、これらの時期には特に栄養素の需要が高まるため、医師や栄養士との相談を強く推奨します。完全な菜食よりも、魚類を含む食事の検討も必要な場合があります。
玄米を美味しく炊くための具体的な技術について説明します。
炊飯器での炊き方の手順は以下になります。
1.玄米を専用カップで正確に計量する
2.軽く2〜3回洗って汚れを落とす
3.6時間以上しっかりと浸水させる
4.玄米専用目盛りまで水を入れる
5.塩を少量加えて玄米モードで炊飯する
玄米の汚れを落とすために米を洗います。普通精米のようにとぎ汁は白く濁りませんが、2回〜3回軽く洗ってください。普通精米のようにお米をとぐ必要はありません。汚れを落とすイメージで洗うことが大切です。
種皮に覆われた玄米は、たっぷりと水を含むのに時間がかかります。そのため最低でも一晩は水に浸すのが理想的です。雑菌の繁殖を防ぐため、冷蔵庫で浸してください。浸水時間を十分に確保することで、芯からふっくらと炊き上げることができます。
圧力鍋や土鍋での調理法では、より美味しい玄米を炊くことができます。圧力鍋は蒸気が外に出ず、もともともっちり炊けるので、水は少なめです。土鍋の場合は、それよりも少し水を多めにすることで、やわらかく炊けるように工夫します。
マクロビオティックにおける季節ごとの食材選びについて解説します。
春の食材と調理法の特徴は以下になります。
・山菜類(たけのこ、ふきのとう、わらびなど)
・新緑の野菜(菜の花、新玉ねぎ、春キャベツ)
・軽やかな調理法(蒸し物、さっと炒める)
・デトックス効果の高い食材を中心に
春は体内の冬に蓄積された老廃物を排出する季節です。苦味のある山菜は肝臓の働きを助け、デトックス効果を高めます。調理法も軽やかにして、体の目覚めをサポートします。
夏の食材選択では、体を冷やす陰性の食材を中心に選びます。きゅうり、トマト、なす、オクラなど水分の多い野菜が適しています。調理法も火を使わないサラダや酢の物、冷たいスープなどが適しています。
秋は収穫の季節で、根菜類や実り物を中心に摂取します。さつまいも、かぼちゃ、里芋、れんこんなどの根菜類は体を温め、冬に向けた体づくりをサポートします。調理法も煮物や焼き物など、しっかりと火を通す方法が適しています。
冬の食材は体を温める陽性の食材が中心となります。大根、ごぼう、人参などの根菜類、生姜、ねぎ、にんにくなどの薬味類を積極的に取り入れます。調理法も煮込み料理や鍋物など、体を芯から温める方法を選択します。
玄米菜食とマクロビオティックは、現代の食生活を見直し、本来の健康を取り戻すための有効な手段です。三大原則である身土不二、一物全体、陰陽調和を理解し、段階的に実践することで、体調改善、美肌効果、デトックス効果など多くのメリットを得ることができます。
重要なのは自分の体調と相談しながら実践することです。栄養バランスに注意しながら、必要に応じて専門家のアドバイスを受けることも大切です。玄米菜食は単なる食事法ではなく、自然と調和した生き方への第一歩となります。今日から少しずつ始めて、健康で豊かな生活を実現しませんか。