日本の発酵食品の歴史は、古代から現代に至る長い月日が経過しています。
発酵食品の進化と発展は、日本の食文化に重要な役割を果たしてきました。
起源を遡れば数千年前にたどり着きますが、日本での発酵食品の発展の観点からいえば、以下のいくつかの重要な時期を通過してきたと考えられるでしょう。
日本での発酵食品は、縄文時代や弥生時代の頃より始まったと考えられています。
縄文時代では、発酵を利用した食物保存の技術が既にあったとされ、自然発酵した米や麦を人々が食べていたようです。
弥生時代に入ると、さらに拡張していき、米や大豆を使った発酵食品が広まりました。
日本での発酵食品の発展は、8世紀の奈良時代になると顕著になります。
奈良時代の発酵食品の記録は古文書に記されていて 、日本書紀・風土記など発酵食品に関する記述を見つけることができるでしょう。
これらの文献によれば、弥生時代からの米・大豆の発酵とともに、魚や野菜が加わるようになりました。
食料長期保存の手段として、発酵の効果に気づいて重要な役割を果たすようになります。
魚の発酵食品としては「鮨(すし)」が既に存在したようです。
ただし、現代の寿司とは異なり、魚・塩・米で発酵させた保存食としての利用に留まっていました。
平安時代は貴族文化が栄えることで、宮廷での多様な食文化が発展したとされています。
貴族の食卓のために工夫が凝らされて、味噌や醤(ひしお)などの調味料が登場します。
また、唐からの影響で発酵技術が本格的になりました。
醤油・味噌・酒(米酒)などの発酵技術が伝来したことで、食文化が彩り始めました。
14世紀〜16世紀は室町時代となり、17世紀〜19世紀にかけて江戸時代へと突入します。
この頃には発酵技術はさらに発展し、日本国内で味噌や醤油の種類が増大していきました。同時に、漬物・納豆・かつお節の発酵技術などが登場します。
江戸時代には、完全に発酵食品が庶民の食生活を彩り、その消費が一般的になりました。
中でも味噌と醤油は大きな発展を遂げます。
味噌は、米味噌・麦味噌・豆味噌などが、地域ごとに複数の種類が製造され、各地の気候風土に合わせながら進化をしていきました。
醤油も、関東地方の濃口醤油、関西地方の薄口醤油というように、地域ごとの特徴を生かしながら育まれていきます。
19世紀末〜20世紀初頭の明治以降になると、欧米からの食文化の影響が入りつつも、日本の発酵食品も独自の進化を遂げていきます。
保存技術や加工技術も次第に改良され、品質管理が整い始めました。
発酵食品の健康への影響についても、深い知識を得ることとなり、発酵食品ブームの基盤が形成されるようになるのです。
昭和以降の現代では、発酵食品の健康効果は常に注目され続けています。
プロバイオティクス・腸内環境改善に役立つこともわかってきました。
また、ヨーグルトやチーズなどの西洋の発酵食品も普通に消費されるようになり、味噌・納豆・漬物などの日本の発酵食品も根強く定番化しています。
しかも日本の発酵食品が海外でも認識され、需要が高まりました。
発酵食品の優れた機能を活かして、新製品の開発なども積極的です。
日本において発酵食品が栄えた理由は、いくつかの要因が考えられるでしょう。
まずは、温暖湿潤な気候であることが大きいことと、米・大豆などの穀物の食文化が根付いたことなどがあげられます。
長い歴史の中で培われた発酵技術もこれらの要素と組み合わさり、世界有数の発酵食品大国となりました。
では、さらに詳しい理由を解説していきましょう。
世界各国を比較しても、日本の発酵食品の種類が多さは他に類がないとされています。
発酵食品が栄えた理由としては、日本国土の気候条件や環境によるところが大きいといえるでしょう。
善くも悪しくも、日本は温暖で湿度が高い地域です。
この奇功ほど、発酵微生物にとっては適切で繁殖しやすい状況となります。
カビや菌が繁殖しやすく、微生物が自然に発生するため、発酵食品の製造に適しているからです。
麹菌などは、日本酒・味噌・醤油などの発酵食品に欠かせないもので、日本の気候風土によって育成の文化も根付いていきました。
日本では、古くから味噌・醤油・日本酒・納豆・米酢・漬物・かつお節などの、多くの種類の発酵食品が作られてきました。
島国であり海に囲まれ、しかも農耕民族としての歴史があることで、自然と食材が豊富に揃ってきたことが大きな理由の一つになっています。
米と大豆を主食とする文化圏であり、発酵食品の重要な原料でもあります。
米は、麹菌生育にもなり、大豆は味噌や醤油、納豆などの材料としても利用できたことが、ここまで発酵食品大国へと発展させた理由です。
他にも、魚介類の塩漬けや発酵などで保存をする食文化も根付き、現在に至っています。
日本では、仏教・神道・禅宗などの影響で、食べ物に対する感謝、自然との調和が大切にされてきました。
食文化と宗教的存在とが融合した部分もあり、発酵食品はそれらの思想と結びついて重要な位置を占めてきたからです。
お寺に行けば、精進料理などもある程、日本人の宗教観とも深い関係性があります。
日本の発酵食品は食文化の一部でありつつも、深い文化的意義を持ち続けてきました。
日本の発酵食品の文化的意義としては、食文化での発酵食品の役割・地域による発酵食品の特色と違い・健康的な生活といった側面からうかがえます。
発酵食品が登場した背景には、日本の食文化そのものに重要な役割を果たしてきたことがあげられるでしょう。
日本での食文化では、いかにして最善な形で保存をして食品の劣化を防げるかを考え、長期保存をしながらも、栄養価を向上させる工夫をし続けてきました。
質素さとモノを大切にしてきた日本人の考え方に、発酵食品はマッチしたのだといえます。
日本の発酵食品の場合、各地域ごとでの特色が色濃くでています。
その土地の風土や文化を反映したものです。
例えば、北海道は白味噌・数の子漬けがあり、東北地方は会津納豆・南部漬けが知られています。
関東地方の千葉や茨城では濃口醤油が主流で、京都では西京味噌、九州地方では八女の麦味噌・たまり醤油、そして沖縄では豆腐ようなど見受けられるでしょう。
これら各地域の発酵食品は、伝統を守りつつ次世代への継承という役割を果たしています。
発酵食品のほとんどは、健康的な食生活へ利点をもたらしてくれます。
プロバイオティクスが豊富なため腸内環境改善、消化吸収を助けるなどの効果が期待できるでしょう。
発酵過程ではビタミンやミネラルが増加し、感染症などへの抵抗力を高めることにつながります。
抗酸化物質も含まれ、老化防止や生活習慣病のリスク軽減の効果があるようです。
恒常的に食卓へ出し続けることで、バランス感覚のよい食生活になります。
日本では古来より発酵食品が発展を遂げ、さまざまな種類のものが登場してきました。
他の国の食文化と比較しても類がないほどだとされています。
味噌・醤油・納豆・漬物・日本酒・甘酒・みりん・酢というように多岐にわたり、微生物の働きを利用して作られてきました。
さらには地域や材料、発酵方法の違いにより細かく枝分かれしていくほど、豊かな食文化に影響をもたらしています。
では、代表的な日本の発酵食品の種類を解説していきましょう。
日本の発酵食品の王道といえば、主食である米を利用して製造する食品です。
米を使った発酵食品としては以下のようなものがあります。
● 味噌
● 甘酒
● 日本酒
味噌は、米大豆と塩を原料に、麹菌を使って発酵させた発酵食品です。
味噌汁はもちろんのこと、さまざまな料理の調味料として広く利用され続けています。
甘酒は、米と米麹を発酵させる飲料で、アルコール分がなく栄養価の高さが再認識され始めました。
日本酒は、米と米麹を発酵させ蒸留して作るアルコール飲料です。
風味や香りに特徴が際立ち、製造する地域によっても微妙な差が生じます。
大豆も日本の発酵食品に欠かせない材料です。
大豆を使った発酵食品は以下のようなものが考えられます。
● 納豆
● 豆腐よう
● 醤油
納豆は、蒸した大豆に納豆菌を加えて発酵させた食品です。
粘り気と独特の風味が特徴で多少の好き嫌いが生じますが、今の時代でも朝食の定番として人気があります。
豆腐ようとは、沖縄特有の発酵食品です。
豆腐を発酵させた伝統的な味で、クリーミーな食感と独特の香りがします。
どちらかといえば、酒の肴として人気があるようです。
醤油は完全にポピュラー化された調味料として知られています。
大豆・小麦・塩を発酵させて製造しますが、和食を中心にさまざまな料理似て使用するようになりました。
野菜を発酵させた発酵食品も、日本では発展し続けました。
その多くは漬物とされています。
● ぬか漬け
● たくあん
● しば漬け
ぬか漬けは、ぬか床に野菜を漬け込み乳酸菌の働きで発酵させます。
管理に手間がかかりますが、食材の保存が利くので古くから自家製のぬか床などが重宝されてきました。
たくあんは、大根を干してぬか床で発酵させたものです。
甘味と酸味のバランスがよく、子供でも食べやすいのが特徴です。
しば漬けは、茄子やきゅうりを塩漬けにし、赤じそと一緒に発酵させます。
色がついて酸味が増すのが特徴です。
日本は食文化に恵まれた長い歴史があり、そのおかげで発酵食品先進国とされています。
そんな日本の食を支え続けてきた発酵食品には、どのようなものがあり製造され続けてきたのでしょうか。
現在でも主流とされている、おもな日本の発酵食品の特徴を解説します。
納豆は、蒸した大豆を納豆菌で発酵させて製造される食品です。
大豆に元々備わった栄養成分に、ナットウキナーゼといった新しい効果を引き出し、独特な風味や粘りを作り上げます。
蒸した大豆を稲のわらに包んだところ、わらに付着していた納豆菌が偶然効果を発揮したことがきっかけだったといいます。
現在では、伝統的なわらの使用ではなく、純粋培養した納豆菌で大量生産できるようになりました。
独特な匂いと粘り気は好き嫌いを分ける場合もありますが、概ね、日本の朝食のお供として広く親しまれ続けています。
ぬか漬けは漬物を代表する発酵食品です。
材料に付着している乳酸菌により、食材に備わった糖類によって発酵させます。
漬物には、他にも塩漬け・味噌漬け・粕漬などの作り方がありますが、最もポピュラーなのがぬか漬けといえるでしょう。
ぬかに水・塩を加え乳酸発酵させたぬか床を利用します。
基本的には野菜を漬ける印象が強いものですが、実際には他の食材にも通用し、魚介類・肉・卵などの食材をぬか漬けにすることも可能です。
日本料理のスタンダードな調味料の醤油は、大豆を発酵させて製造します。
麹菌を利用した発酵食品の一種です。
まず、大豆と小麦に麹菌を加え麹を作り、塩と水を混ぜ「醪(もろみ)」が形成されます。
醪を木桶やタンクの中で寝かせて、発酵をさせながら完成したものが醤油です。
大豆に含まれたアミノ酸が豊富で、小麦のでんぷんがブドウ糖に変化し、熟成したもろみを絞り出して製造します。
味噌も大豆を発酵させて製造する調味料です。
醤油と同様に麹菌によって発酵させます。
大豆のたんぱく質が麹菌によって変化し、乳酸菌や酵母などが加わり、より複雑な味わいを生み出すのが特徴です
また、白味噌や赤味噌などの種類があり、麹の種類や発酵時間、塩分などによって変化します。
より長い期間寝かせればコクや深みが、短期間なら甘味が強い味噌に仕上がるでしょう。
使われる麹にも種類があるので、材料の選び方や熟成期間などによりけりです。
塩麹は、素材を漬けるだけでなく調味料としても使用できます。
製造は至ってシンプルで、塩と麹だけを使った発酵食品です。
塩麹の歴史は、江戸時代の文献あたりから登場しますが、既に日本の家庭で手作りされていました。
豊富な酵素が含まれ、漬けた食材を柔らかくする効果もあります。
現在の日本における発酵食品事情は、健康志向が高まっている風潮から、今まで以上に関心を集めているようです。
おもに腸内環境を整える効果・免疫力向上への期待などに注目があり、改めて発酵食品の摂取を意識する人が増えています。
味噌・醤油・漬物などは伝統的な日本の食品として食卓に並び、そこに加えて、ヨーグルト・チーズなどの乳酸菌による発酵食品も出される傾向です。
和食離れの影響も指摘されてはいますが、実際には各地域の特産物としての発酵食品は今でも人気があります。
また、新しい発酵食品の活用なども期待されることでしょう。
では、さらに詳しく解説していきます。
現在、発酵食品が見直される理由は、腸内フローラを整えるといった健康効果にあります。
プロバイオティクスが話題になり、腸活・免疫力アップを目的とした発酵食品が再評価されているからです。
これは日本だけの傾向ではなく、世界全体を見渡しても前向きな傾向といえるでしょう。
新しい食品が登場しつつも、昔ながらの伝統的な発酵食品にも再注目され始めました。
納豆は、定番の発酵食品として今も根強い人気がありますが、近年では、血糖値改善やコレステロール低下の効果に注目しています。
そのため、納豆を単体でご飯と食べるというよりも、新しい商品やレシピが増えている傾向です。
味噌も、日本の食卓で広く使われ続け、味噌汁に限らず多様性があるため不動の人気を保っています。
新しい発酵食品としては、ケフィアやキムチなどの海外の発酵食品が注目されています。
中でもキムチは、現在の日本で発酵食品ブームを再燃させた功績があるといえるでしょう。
ヘルシー志向の人々のために、スーパーには多種多様な商品が販売されています。
他にも、納豆風味ヨーグルトのように、伝統的発酵食品を現代風にアレンジした商品も登場してきました。
現在では、食事として発酵食品を摂取すること以外に、手軽に取り入れられる製品の発展も著しいといえます。
発酵ドリンクや発酵調味料(発酵ソース・発酵ドレッシング)などが人気です。
サプリメント化も進んでいて、手軽に摂取できる形態として登場しています。
ネット通販などの普及に伴い、日本各地に存在する独自の発酵食品が注目されています。
例えば、沖縄の豆腐よう・長野の酒かす・福岡の辛子明太子などは、元々はその地域に根付いた発酵食品でしたが、通販でも手軽にできるようになりました。
当然、旅行での土産として購入されることもあります。
発酵食品は伝統的な食品としてのポジションから、徐々にサステナビリティの観点としても注目されるでしょう。
環境に配慮した製造方法などが採用されるようになり、健康を意識した持続可能な食品として今後も発展を遂げるだろうと予測されています。
今後も日本の食文化の中で営まれつつ、健康や環境に配慮した最新型の発酵食品が販売される可能性があるでしょう。
日本の発酵食品は、古代から現代に至るまでに、長い歳月を積み重ねながら進化の道を辿ってきました。
縄文時代にはその最初の片鱗が伺え、奈良時代に入ると保存技術として注目され、平安時代中期には貴族文化や仏教の影響による発酵食品が誕生しました。
味噌や醤油などが今でも広く普及しているのは、歴史の育みとともに改良が加わり、日本の食文化に浸透していったからです。
現代では、世界有数の発酵食品大国となった日本は、改めて発酵食品の魅力とその発展の過渡期として、見直す必要があるでしょう。