
発酵食品とは、人間にとって優良な微生物の働きから作られる食品のことです。
微生物が、原料の成分を分解・変換させる効果により、独特の風味・栄養価・保存性を生み出すことになります。
また、発酵と類似した状態の「腐敗」も、微生物の作用によって生じる変化ですが、明らかに性質が異なってくる現象です。
ここでは、発酵食品と微生物に関する基本概要を解説します。
発酵食品とは、細菌や酵母などの微生物による働きから、食品が化学反応や変化を起こして作られる食品です。
発酵の過程では、微生物によって食品に含まれる糖分などの成分を分解し、別な物質へ変化させることで、風味・栄養価が増すことを期待して製造過程を汲んでいきます。
発酵の結果で生じる有機物は、おもにアルコール・乳酸・酢酸などで、例えば、味噌・醤油・ヨーグルト・納豆・チーズ・漬物などが、発酵食品の代表的素材として知られ、日々の食卓を彩ってくれるのです。
発酵のメカニズムについては、微生物の種類と使用する原料によって異なります。
おもに以下のようなものがあげられるでしょう。
● アルコール発酵
● 乳酸発酵
● 酢酸発酵
アルコール発酵では、酵母が糖を分解し、アルコールと二酸化炭素を生成します。
ビール・ワイン・清酒などの醸造で利用するのが典型です。
乳酸発酵は、乳酸菌が糖を分解し、乳酸を生成します。
ヨーグルト・チーズ・キムチなどの製造では乳酸菌が生成されるのが特徴です。
酢酸発酵では、酢酸菌によってアルコールを酢酸に変えます。
ほぼ、酢の製造に利用されているものです。
微生物とは、普通は肉眼では判別できないほど小さな生物で、周りのあらゆる場所に存在する菌の一種です。
細菌・ウイルス・真菌(カビや酵母)などが該当し、発酵食品の製造に関与することがあります。
おもに真菌の活発な動きによって、食材の栄養素を分解し、化学変化により発酵を促してくれるのが特徴です。
微生物は、自然界において重要な役割を果たします。
事例としては、土壌の肥沃化・有機物の分解・病原菌の抑制などです。
発酵食品の製造においても同じで、特定の微生物を選別し、その特性を生かしながら利用されます。
乳酸菌や酢酸菌がその代表例といえるでしょう。
ヨーグルト・チー・キムチなどの製造では、乳酸を生成して酸味を生み出します。
また、酢酸菌は、酢の製造にてアルコールを酢酸に変えるのが役割です。
酵母であれば、糖をアルコールと二酸化炭素に分解する力で、パン・ビール・ワイン・清酒などの醸造に利用されます。
麹菌などのカビは、味噌・醤油・清酒の製造に利用され、 デンプンやたんぱく質を分解する酵素を生成するのが役目です。
地球の生態系を維持するほどの重要性を担っているのが微生物です。
各分野で人々の生活に役立っています。
例えば、有機物の分解・食品の発酵・病気の治療・環境浄化など多岐にわたるものです。
● 分解作用
● 窒素固定
● 腸内フローラ調整
● 病原菌抑制
● 食品発酵
分解作用では、微生物が有機物を分解する作用により、土壌中にある動物などの死骸や落ち葉を分解し栄養素が再利用されます。
そのため、土壌が肥沃になり地球上の物質循環を担っているのです。
窒素固定は、空気中の窒素を取り込み、植物に作用します。
微生物を介して土壌中の窒素供給が安定するため、植物の成長に寄与するからです。
人間や動物の腸内でも、微生物は生息し消化を助けます。
また、免疫システムを調整するのが役目です。
病原菌の発生を抑制する働きもあり、腸内フローラの中には、有害な病原菌と競合し対処をします。
食品発酵では、ヨーグルト・チーズ・味噌などの発酵食品を製造するのに不可欠です。
微生物の働きは、風味や栄養価の向上、保存性も高まります。
他にも、汚染物質を分解する能力です。
環境浄化・廃水処理などでも微生物は活用され、油分や化学物質を分解する「バイオレメディエーション」などは、環境保護に貢献します。
発酵と腐敗は類似した現象ではあります。
どちらも微生物の働きが、食品を変化させる現象ですが、その結果は、人間にとって有益か有害かで区別されることが特徴です。
人間の価値観や文化によって、どちらかに判断されるケースといってよいでしょう。
発酵は、微生物の作用が食品の味・風味・保存性を向上させ、有益にする現象です。
一方、腐敗は、微生物の作用が劣化と見なされ、不快な臭い・有害物質などを生成する現象を指します。
日常生活において、発酵食品は、風味・栄養価が向上した普遍的なものとして親しまれています。
古くからの歴史と文化があり、製造方法の進歩や微生物の選別によって社会に影響を与えてきました。
そんな発酵に関与する微生物は多岐にわたり、細菌、酵母、カビの3種類が顕著です。
ここでは、発酵を担う微生物の役割・その特徴について詳しく解説します。
細菌は、発酵プロセスにおいて重要な役割を担った微生物です。
中でも、乳酸菌・酢酸菌は、発酵食品の製造に必要不可欠といえます。
糖を乳酸に分解して酸味を生み出すのが特徴です。
乳酸菌は、ヨーグルト・チーズ・キムチ・サワークラウトなどの発酵食品の製造にて利用されているので、お馴染みではないでしょうか。
保存性を高めることや、腸内環境を整えるプロバイオティクスの効果も期待できます。
酢酸菌は、アルコールを酢酸に変えて酢を製造します。
酢酸も食品保存性を高め、独特の風味を加えるものです。
米酢・リンゴ酢・ワインビネガーなどが代表的な製品とされています。
酵母は、糖をアルコールと二酸化炭素に分解します。
パンの発酵・ビール・ワイン・清酒の醸造にて広く利用される微生物です。
パン酵母には、サッカロミセス・セレビシエなどがあり、パン生地の糖をアルコールと二酸化炭素に分解させて、生地を膨らませます。
アルコール発酵酵母は、ビール・ワイン・清酒の製造にて用いられる微生物です。
発酵中にアルコールと独特の風味・成分を生成します。
カビの一種としては、おもに麹菌などが広く利用されています。
デンプンやたんぱく質を分解する酵素を生成して製品化に寄与する役目です。
麹菌の種類には、おもにアスペルギルス・オリゼなどがあります。
日本では伝統的に発酵食品が育まれてきて、味噌・醤油・清酒などが食文化を彩ってきました。
麹菌は、糖やアミノ酸を生成し、発酵の進行とともに食品に深く豊かな風味が加わります。
また、青カビ・白カビなどは、チーズの製造に利用され、さまざまな銘柄や種類のチーズを製造してきました。
一般的に、カビには悪い印象がありますが、これらのように優良なカビも存在し、それぞれ異なる方法で発酵を促進させ、食品の質向上に加担してくれているのです。
発酵食品は、古代から伝わる保存技術の一つで、製造方法には微生物の力が欠かせません。
微生物は、食品の保存性を高め、風味や栄養価を向上させる役割も果たします。
そのような、発酵に欠かせない微生物について、ここでは詳しく解説しましょう。
発酵食品で広く利用され続ける、主な5つの微生物の概要・役割などに触れていきます。
発酵食品に利用される微生物の代表として、麹菌は典型的な存在です。
とくに日本の発酵食品文化において重要な役割を果たしてきました。
カビの一種であり、米・麦・大豆といった主原料に付着します。
その上で発酵を促進させて酵素を生成し、デンプン・たんぱく質を糖やアミノ酸に分解する微生物です。
麹菌からは、アミラーゼやプロテアーゼなどの酵素を生成し、デンプンを糖に、たんぱく質をアミノ酸に分解します。
発酵プロセスをさらに加速させ、風味・独特の甘みや旨味を引き出すことになるでしょう。
おもに味噌・醤油・清酒などの製造に広く利用されています。
そのため、製造する食品や目的に応じて使い分けてきました。
麹菌には種類がいくつかあります。
白麹は、焼酎の製造に使用されクエン酸を生成します。
焼酎へ特有の風味を与えることが特徴です。
黒麹は、泡盛の製造に使用されます。
これにも多量のクエン酸生成の性質があり、深いコクと豊かな風味を加えることになるでしょう。
黄麹は、味噌・醤油・清酒の製造に広く使用されます。
酵素が生成されて、デンプン・たんぱく質を分解し甘みと旨味を引き出すでしょう。
酵母菌も伝統的な微生物です。
単細胞の真菌の一種とされ、糖をアルコール・二酸化炭素に変える能力を持っています。
球形または卵の形をしていて、エタノール(アルコール)と二酸化炭素を生成することが可能です。
環境条件さえ整えば、急速に成長し増殖する能力があります。
とくに酸素がある好気条件、酸素がない嫌気条件に関係なく対応してしまう性質です。
さまざまな環境で利用できることで、古くからアルコール発酵などに関与してきました。
他にも、パン製造においても酵母菌は活躍します。
パン製造での酵母菌の役目は、発酵から二酸化炭素を生成して生地を膨らませる効果です。
原料の小麦粉・水・塩・砂糖に、「イースト菌」という酵母を加えるのが普通です。
一次発酵・二次発酵という段階を踏んで完成します。
乳酸菌も、発酵食品の製造において重要な微生物として利用され続けています。
大きく分けると、動物性乳酸菌・植物性乳酸菌の2種類があり、それぞれの特徴と違いが顕著です。
動物性乳酸菌は、おもに動物の腸内・乳製品に生息します。
温暖な環境(37℃前後)で活発な活動を示し、ヨーグルトの製造などで広く利用される微生物です。
乳糖を乳酸に発酵させて、特有な酸味が生まれます。
チーズ製造においても、動物性乳酸菌が使われてきました。
一方、植物性乳酸菌は、植物や発酵野菜に生息しています。
広範な温度範囲(20〜30℃)で発酵し、おもにキムチやザワークラウトなどの製造に利用される微生物です。
醤油・味噌の製造にも植物性乳酸菌が利用されます。
乳酸菌の生成は、保存性を高めつつ、健康にも良い影響を与えてくれるでしょう。
発酵技術は古代から伝統的に継承され、現代でも多くの食品や飲料の製造に欠かせません。
納豆菌は、枯草菌(こそうきん)とも呼ばれ、強い発酵力があります。
大豆を分解し発酵させ、独特の粘りと風味をもたらすのが特徴です。
高温に強く70℃以上の温度でも生存できます。
環境が適切であれば急速に増殖し、短時間で発酵が進行する性質です。
他の微生物の成長を抑制する抗菌物質を生成し、長期間保存が可能でもあります。
また、日本独自の食品である納豆の製造プロセスで活躍することも特徴といえるでしょう。
酢酸菌は、エタノール(アルコール)を酸化して酢酸に変える微生物です。
酸性の強い環境でも生きれますが酸素を必要とします。
温度としては20〜30℃の範囲で活発化できるのが特徴です。
米酢・リンゴ酢・ワインビネガーなど、さまざまな種類の酢の製造に利用されます。
人体への良い影響が多く、料理用の調味料だけではなく、近年では健康食品としても見直されてきました。
今では、世界中見渡してみると、日本こそが発酵食品大国とされています。
なぜ、日本は世界有数の発酵食品大国になったのでしょうか。
理由はいくつか考えられ、温暖湿潤な気候風土・豊富な食材・保存食としての見直しなどがあげられるでしょう。
中でも、麹菌による発酵技術は、日本独自の食文化とされ注目されています。
では、さらにこれらの理由に関して解説していきましょう。
日本は四季が巡ることで、温暖・湿度の高い気候が特徴です。
この気候によって、カビや菌が繁殖しやすい環境とされていることが、発酵食品の生成に最適だとされています。
麹菌などは日本特有の伝統の下で育まれ、日本酒・味噌・醤油などの発酵食品製造に関与してきました。
他にも、周囲を海に囲まれた環境により、漁業の資源が豊富で、その保存のために塩漬けなどの手法が発展していったことも大きいでしょう。
魚醤や塩辛に代表される、水産発酵食品が生まれました。
日本には、昔から多くの食材が生産されてきた歴史があることも大きいでしょう。
米・大豆・野菜などは、発酵食品の原料となる農作物です。
中でも米と大豆は、味噌・醤油・納豆などの発酵食品の主要な原料でもあります。
海に面していることから魚介類も豊富です。
保存食として利用する工夫もされてきたことが、日本を発酵食品大国へと導きました。
日本では、保存食として発酵食品が重宝されてきた歴史があります。
冷蔵技術が発達する以前より、いかにして食品を長期保存させるかを追求してきました。
そのためのアイデアとして、発酵食品が発達し長期保存の手法を編み出したのです。
また、風味や栄養価も向上することがわかり、食文化を彩ってきました。
発酵食品は、厳密な管理の下で、食品会社が大量生産をしているイメージがありますが、実はそれだけではなく、自宅でも作ることが可能です。
適切な方法でしっかり管理を怠らなければ、自家製の発酵食品が楽しめます。
では、自宅で作れる発酵食品を紹介しましょう。
ヨーグルトは代表的な発酵食品の一覧です。
乳酸菌を用いて牛乳を発酵させます。
腸内環境を整える効果が期待できるでしょう。
材料としては、牛乳が250mL、ヨーグルトを25g(大さじ1)を準備し、クーラーボックス・蓋付きの保存容器・スプーン1本・カイロ4~5枚・温度計などの備品を活用します。
作り方の手順は以下のとおりです。
● 使用する容器類に熱湯をかけるなどの除菌や煮沸をする
● 牛乳を電子レンジで2分掛けて600W加熱する
● 40℃になるまで冷ます
● 種になるヨーグルトを加えて均一に混ぜる
● 蓋をしてクーラーボックスに入れる
● カイロを入れボックス内を30~40℃に保つ
● 動かさないように一晩寝かせる
大豆を納豆菌で発酵させて完成するのが納豆です。
ビタミンK2・食物繊維が豊富で、今では注目されている食品といえるでしょう。
昔、大豆をわらに包んで保存したところ、そこへ菌が移って偶然誕生したとされています。
自宅で作る際の材料は、大豆が100g、納豆菌で、ラップ・カイロ 2枚(まい)・クーラーバッグ・タオル・割りばし・食品保存容器・爪楊枝を用意します。
手順は以下のとおりです。
● 大豆を水洗いして清潔にする
● 18時間ほど水に漬け2倍くらいの大きさにする
● 圧力なべで80分ほど煮て、10分間置く
● ボウルに入れて、納豆菌(びんの上ずみ液体)をスプーン2〜3杯かける
● よくかき混ぜる
● 熱消毒した食品保存容器に移し、ラップをかけ爪楊枝で5か所穴を開ける
● クーラーバッグに入れ、食品保存容器の両わきにカイロを置く
● 上に割り箸を乗せ、その上にぬらして軽くしぼったタオルをかける
● 18時間くらい待つ
● 豆の表面が白く糸が引くようになったら冷蔵庫に入れ1日経てば完成
発酵食品の美味しさを決定させるには、微生物の強力な力が重要です。
微生物にはたくさんの種類があるので、作りたい発酵食品によって、どのような微生物を選ぶのが適切なのかを理解する必要があるでしょう。
味噌・醤油・ヨーグルト・チーズ・納豆といった発酵食品は食卓を豊かにしています。
すべて、特定の微生物の活動によって生み出された効果です。
微生物の働きにより、食材の栄養素を分解し、独特の風味や保存性をもたらします。
そのため、発酵のメカニズムを理解すると、これらの食品の多様な魅力が分かってくるでしょう。
健康的な食生活を実現させる意味でも、発酵食品に注目した食生活をしてみてください。
